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ユーザー視点で課題を発見・可視化する

行政機関向けジャーニーマップ基本編

編著者:

行政情報システム研究所 / 立命館アジア太平洋大学 狩野英司

ジャーニーマップ, ペルソナ, ユーザー調査

行政機関向けジャーニーマップ基本編

ツール概要

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ジャーニーマップは、ユーザーが行政サービスを利用する過程で体験する感情に基づいて、各場面での課題を可視化していくフレームワークです。このツールは、行政職員が、自らが関心を持つ課題について、実際にひと通りジャーニーマップを作成できるようになるためのものです。

利用者・活用シーン

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次のような問題意識を抱えている行政職員の方に役立ちます。

  1. サービスの利用率が低迷している状況を打開したい

  2. 新しいサービスを多くのユーザーに活用してもらいたい

どの部門の業務にも役立ちますが、特に次のような業務に向いています。

  • オンライン化、窓口改善、広報・PR、手続き見直し(含:ワンストップ化)

ツールレベル

初中級

ツールレベルとは ・初級:特段の事前学習を要さず、本実践ガイドの学習のみで活用可能 ・中級:関連フレームワークについて別途研修等により学習済みであることが前提 ・上級:関連フレームワークをすでに実践済みであること、又は、個別の知識領域に関する高度な知見があることが前提

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前提・留意事項

デザイン思考及びジャーニーマップという用語についての基礎知識を持っていることが望ましいです。デザイン思考自体になじみがない方は、下記の実践ガイドを実施してから利用ください。

行政機関向けジャーニーマップ体験版

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■ 意義・特徴


このガイドに沿ってグループワークを行うことで、任意の課題でジャーニーマップを作成することができます。研修用に開発されたツールであり、必要最小限の要素に絞り込んでいますが、これを実践することで、デザイン思考の視点を身に付けることができるだけでなく、実際に現実の課題に当てはめて、ユーザー中心の観点での課題の発見・体系化・特定までを行うことができます。どのような課題にも適用できる汎用性があり、ユーザーとしての住民はもちろん、ユーザーとしての職員の視点でジャーニーマップを作成することも可能です。


このツールを利用することで、次の効果が期待できます。

  • 実際の業務・サービスの課題について、ジャーニーマップのフレームワークに基づいて、課題を探索・体系化・特定することができる

  • 実際に手を動かすことを通じて、デザイン思考の要点であるユーザー中心への「視点の転換」を実感することができる


■ 使い方


共通の課題認識を持つチームや関係者で集まり、課題設定や解決の方向付けを行う場面で利用することを想定しています。一人で行うことも可能ですが、職員同士数名(3~6人程度)で集まって行った方が大きな気づきが得られます。デザイン思考の実習型研修の経験を持つ方や、ファシリテーター経験のある方がリードするのが望ましいですが、専門的なスキルは必要ありません。


なお、本実践ガイドでは、パソコン上のワークシートを使ってグループワークを行うことを想定していますが、模造紙に折り目をつけて付箋を貼ってワークショップを行うことも多いです。


具体的な利用の流れは以下の通りです。


(ワークの流れ)


  1. まず、会の目的を共有し、必要に応じ、参加者間でアイスブレークを行います。このときファシリテーター役も明確にします。

  2. ファシリテーターは「ユーザー向けガイド」に基づいて、全体の流れを説明します。参加者にワークの全体像を掴んでもらうことが目的なので、詳細な説明は必要ありません。

  3. 全員で意見を出し合いながら、「シートA」を使ってジャーニーマップの建付けを行います。シートが埋まったら完成です。なお、重要なペルソナは一人とは限りません。例えばサービス改善にあたり、必ず検討しなければならないペルソナが2名いる場合は、2つのペルソナを作り、2つのジャーニーマップをそれぞれ作成してください。例えば、スマホが苦手な高齢者と、行政のことをよく知らない若者では、ジャーニーマップも、そこから導出される課題も全く異なるものになります。

  4. ジャーニーマップの建付けが終わったら、各自で「シートB」をダウンロードし、割り振られた担当分について埋めていきます。

  5. アイデアをひと通り出したら、共通の「シートB」に集約します。

  6. 「シートB」を全員で俯瞰しながら、見落としている「感情」がないかを全員でチェックし、埋めていきます。

  7. プロジェクトとして対応すべきペインポイント(=行政が対策を講じるに値する「痛み」)を特定し、そのペインポイントに基づいて、取り組むべき課題を整理します。特定すべきペインポイントは一つとは限りませんが、すべての「痛み」をペインポイントとする必要はありません。優先順位付けが重要となります。


(参考時間配分)


1. イントロダクション(5分)

2. ユーザー向けガイドの説明(15分)

3. ジャーニーマップの建付け(30分)

4. ジャーニーマップ担当分の作成(15分)

5. ジャーニーマップの集約(5分)

6. ジャーニーマップの全員でのレビュー・ブラッシュアップ(15分)

7. ペインポイント及び課題の特定(20分)


■ 実績・有用性


行政職員向けのDX研修やデザイン思考研修において、これまで数十回の実績を経てブラッシュアップしてきた研修教材です。

 以下は、総務省自治大学校「デザイン思考とDX」研修(2024年)での評価の一部です。

  • デザイン思考の理論について、相手方の痛みからスタートする発想がとても参考となった。フローでまとめた行政手続きのネガティブな要素について、相手方の痛みを軸として、内容を整理していくと思いがけず、考え方を整理できた印象。

  • ユーザーの「痛み」に着目するという視点はこれまで持っていなかったため、今回の講義は大きな学びとなった。

  • グループワークでのジャーニーマップの作成等を通じて、デザイン思考の基礎を学ぶことができた。

  • グループワークを通じ、ジャーニーマップ、ペルソナを用いたデザイン思考を進めるための具体的な手法を体感することができました。今後の業務にぜひ活用していきたいと感じました。

  • 痛みを想像して展開していく中で課題が明確化していく過程を体験することができました。

  • ジャーニーマップとペルソナ設定を活用して課題を見つけるグループワークは初めてでしたが意見出しで非常に有用性を感じることができました。


■ 次のステップ


(アドバンス研修・実習)


この後のステップとして、例えば、筆者が関わる研修では、以下のようなコースが設けられています。

  1. ジャーニーマップも使いながら、一連の課題解決プロセスを習得する研修(所要約1日)

  2. 実際の課題解決の中でジャーニーマップを利用する伴走型の支援


総務省自治大学校、J-LISその他、広域自治体職員研修団体等が主催するDXやデザイン思考関連の研修会で行われているものです。


(参考文献とその概要)


  • 税務行政のデジタル・トランスフォーメーション(国税庁長官官房デジタル化・業務改革室 DX戦略係 係長 三輪 和平,2024)<https://www.iais.or.jp/ais_online/online-articles/20240201/202402_01/>

    • 国税庁において、実際にジャーニーマップを使いながら行政のデジタル化を行った事例が紹介されています。

  • デジタル・ガバメント推進標準ガイドライン 実践ガイドブック🔗(デジタル庁)

    • 国のシステム開発プロセスを詳しく解説されています。第3編第4章サービス・業務企画p.14に「参考:ジャーニーマップ」の解説があります。

  • 行政機関におけるサービスデザインの利活用と優良事例🔗(政府 CIO 補佐官等ディスカッションペーパー,2021)

    • サービスデザイン(デザイン思考を用いたサービス開発)の基礎知識と行政での事例が紹介されています。具体的には、e-Govシステムの刷新やワンストップサービスの企画、法務省ウェブサイト更改について詳しい解説があるほか、自治体や海外での取組事例もいくつか紹介されています。

  • サービスデザインに基づくe-Govリニューアル(総務省行政管理局 行政情報システム企画課情報システム管理室 総合窓口申請係長 遠藤 琢,2021)

  • 行政における利用者中心のサービス改革の実践-サービスデザインによるe-Govの刷新-(総務省行政管理局 行政情報システム企画課 榊原 美月,2019)

    • 上記2事例いずれもe-Govシステム刷新の取組みで行われたサービスデザインの手法の一つとしてジャーニーマップを紹介しています。

  • 行政におけるデザイン思考の推進に向けた人材育成に関する調査研究(行政情報システム研究所,2019)<https://www.iais.or.jp/reports/labreport/20190331/designthinking2018/>

    • デザイン思考に関する海外事例について、ジャーニーマップが研修の中でどのように実践されているかが詳しく解説されています。

  • サービスデザイン実践ガイドブック🔗(内閣官房 情報通信技術(IT)総合戦略室,2018)

    • サービスデザインの理論と主な手法(KA法、ペルソナ分析、ジャーニーマップ、ストーリーボード)、ワークショップによる実践方法が詳しく解説されています。


■ 用語解説


  • ジャーニーマップ: ジャーニーマップとは、ユーザーによる一連のサービス体験を「旅(ジャーニー)」になぞらえ、各場面でユーザーが体験する感情に基づいて、それぞれの課題を可視化していく手法です。デザイン思考の手法の中でも最も広く用いられるフレームワークの一つであり、行政でも利用されることの多い手法です。


  • ペルソナ: ジャーニーマップにおける「ジャーニー」の主人公となる架空の人物像を明確化することで、課題の深堀りや関係者とのコミュニケーションの円滑化を図るツールです。単独で研修が行われることはあまりなく、ジャーニーマップなど他のフレームワークとセットで利用されます。


  • ユーザー調査:  ジャーニーマップ作成のインプットとなるユーザーの行動や感情を明らかにするプロセスです。ユーザーが行政サービス利用のどのような場面で躓くのかを発見する「行動観察」、実際に行政手続きなどを行ってみて疑似体験する「参与観察」などのほか、アンケート調査やフォーカスグループインタビューなども含まれます。

関連スキル

デザイン思考, サービス改革

関連フレームワーク

ジャーニーマップ, ペルソナ, ユーザー調査

関連研究・事業

行政情報システム研究所調査研究

著作者・連絡先

狩野英司(行政情報システム研究所 主席研究員、立命館アジア太平洋大学 准教授)

掲載年月日

2025年9月30日

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