関連フレームワーク:
サービスキャンバス, ユーザビリティテスト
背景・問題
学生は定期券を購入する際に通学証明書の提示が必要となるため、年度初めに混雑する定期券発売所で長時間並んで購入していた
定期券発売所は14か所(R6.4.1現在)に限られており、混雑を招いていたほか、利用者は更新のたびに電車移動が必要となっていた
年度初めの繁忙期は定期券発売所に本局の職員を追加投入する必要があるなど、定期券発売業務に対する負荷が高かった
起こした 変革
本局の職員や駅の係員から集めた気づきを把握・整理し、サービス開発に反映させた
ユーザビリティテストを実施し、利用者視点を織り込みながら反復型の開発を実践した
さまざまなステークホルダーを巻き込みながら、必要な知見やスキルを補完して進める協働体制を構築した
生み出した価値
初年度繁忙期において、約4,500人(利用率16%)が予約サービスを利用するようになり、定期券発売所の混雑軽減に大きく寄与した
学生の利用者は、通学証明書を事前にアップロードすることで、定期券発売所で提示する手間がなくなり、自動券売機でいつでも定期券を購入できるようになった
窓口において従来のような行列がなくなり、定期券発売業務の負担が軽減された
変革のストーリー

1. はじめに
東京都の都営地下鉄と日暮里・舎人ライナーでは、年度初めの4月の繁忙期に定期券発売所へ100人以上の行列ができるという状況が大きな課題となっていました。こうした状況を改善するため、東京都交通局電車部営業課は、利用者がウェブで事前に必要情報を登録し、予約済みのQRコードを自動券売機にかざすだけで定期券を発券できる定期券Web予約システムを導入しました。
この記事では、本取り組みを主導していた東京都交通局電車部営業課へのインタビューをもとに、どのようなプロセスで取り組みを進めていったかを紹介します。
本取り組みは、現場の業務課題への問題意識から自然発生的に始まったものであり、毎年4月に発生する繁忙期の対応に対する課題意識が出発点でした。そこでは以下のようないくつかの問題が散見されていました。
定期券発売所に長蛇の行列ができていた
定期券発売所が14か所に限られていた(取り組み実施当時)
利用者は申込書をその場で手書きし、定期券発売所の係員は証明書類と照合する必要があった
これに対し、定期券を購入する利用者側の視点でサービスを改善することが求められていました。
また、繁忙期には本局職員が応援に向かう必要があるほど業務負担が大きくなっており、「毎年この状態が続いていけば利用者に対するサービス品質の維持が難しくなる」という担当者共通の課題意識が背景にありました。
こうした状況に直面していた東京都交通局営業課の担当者たちは、関係者間で認識合わせを行い、「行列の原因は何か」「利用者が事前に情報を入力できれば負担を減らせるのではないか」といった“あたりまえを問い直す”ところから、あるべきサービスの姿の具現化に向けて検討を始めました。実は、行列ができていることに対して、利用者からのクレームは少なかったと担当者は言います。「お客さま自体も4月だとそういうものだと思っているので、苦情にならないというところもあるのではないかと思います。特段、お客さまの方からこれだけ並んでいるのを何とかしてほしい、といった要望はこれまでにもあまりなかったように思います。」
2. 取り組みの全体の流れ
本取り組みは、以下の流れで進みました。最初に現場起点の課題認識があり、それに対するサービス改善のゴールイメージが形成されました。次に、そこで必要とされる機能的な制約や仕様の議論が庁内で行われ、想定される使いづらさや既知の課題に関する意見を集約し、予算要求及び企画・仕様書準備が行われました。調達を経て委託を行った外部のシステム開発会社は、それらの意見をもとに実現可能性を検討した上で開発を進めました。そして、ユーザビリティテストのフェーズでは、できあがったβ版を検証し、フィードバックとともにシステム開発会社に戻す、というプロセスを繰り返していくことで、徐々にサービスができあがっていきました。

図1:「プロジェクトのスケジュール(出典)サービスデザインガイドライン事例集-定期券Web予約システムの開発」のスケジュールを一部加筆修正
3. 利用者の体験をたどり、サービスの全体像を描く
発券場所の少なさに起因する定期券発売所の行列や窓口業務の負担などの課題は既に顕在化していました。しかし、実際に利便性の高いサービスを実現するには、こうした課題の起きている状況や背景を丁寧に解きほぐし、どこに負担が生じているのかを洗い出すことが重要でした。本取り組みでは、担当者たちは職員や利用者の行動から逆算して考えるという、“あたりまえを問い直す”視点を軸に、改善の方向性を探っていました。
まず着目したのは、利用者が定期券を購入する際に“どの順番で、何に悩み、どこで時間を費やしているのか”という「行動」でした。これを確認するために、繁忙期に実際に定期券発売所のある駅に赴いて状況を観察しています。列に並び、紙の申込書を書き、手元の証明書と照合しながら窓口で手続きを行う一連のプロセスは、利用者にとっても提供者にとっても負担となっていました。駅の係員が日々の業務で感じていた、どこで滞留が起きるのかという実感と、利用者の行動を観察して見え てくるつまずきや迷いが重なることで、解決すべき課題が立体的に浮かび上がっていきました。
また、担当者は他の鉄道事業者の類似サービスを実際に操作し、自分の体験として捉えていきました。これにより、例えば、どのタイミングで迷いやすいのか、どの文言が分かりにくいのか、入力にどれほど時間がかかるのかなどを自身の身体感覚として把握することができました。こうした、自分で使ってみるという行動が、利用者が置かれる状況に自然と目が向くきっかけとなり、利用者視点で課題を捉える感度を高める一助となりました。
さらに、企画段階で利用者像をできるだけ具体的に描いたことも重要でした。年度初めの繁忙期の主な利用者は学生であることから、「スマートフォンで長文を読まない」といった行動特性を前提に、画面設計や情報量を検討していきました。これにより、サービスの範囲や開発の優先順位が自然と整理され、後工程での大きなブレを防ぐことにつながりました。
このように、利用者の行動から逆算して課題を捉える姿勢が、結果としてサービス全体の“骨格”を形成し、開発の方向性を定める核となっていきました。
Knowledge 1 利用者を深さと広さの両面で理解する——ペルソナとカスタマージャーニーマップの活用 行政サービスのデジタル化や改善が進む中で、行政職員が陥りやすい落とし穴として、「制度として正しいか」「システムとして動くか」という機能的観点を重視しすぎてしまうことが挙げられます。 しかし、実際にサービスを利用するのは様々な状況的、身体的、認知的多様性を持つ「人」です。利用者が迷わず、負担なく手続きを完了できるようにするためには、「誰が」「どのような文脈で」そのサービスを利用するのかをしっかり理解する人間中心設計(Human-Centered Design)のアプローチが不可欠です。 「ペルソナ」と「カスタマージャーニーマップ」は、このような人間理解のために有効なメソッドです。
<ペルソナ> 「ペルソナ」とは、サービスの主要な利用者像を、あたかも実在するかのような具体的な一人の人物として描き出す手法です。行政サービスは誰にでも使える公平性が求められるため、「全ての市民」をターゲットにしがちです。しかし、このような広い対象をそのままサービス開発時のターゲットにしてしまうと、様々なニーズを想定し多くの機能を実装することになります。その結果、「誰にとっても使いにくい」機能過多かつ開発コストが余分にかかったものになりかねません。そこで、まずは最も影響の大きい利用者像を「 ペルソナ」として具体的に描くことで、関係者間で設計の指針の認識を合わせやすくします。なお、ペルソナはラテン語で「仮面」を意味し、パーソナリティ(人格)の語源でもあります。 今回の取り組みでは、主要利用者が学生であることが明確だったため、
といった行動特性がペルソナにあたる利用者像として共有されていました。 ペルソナを最初に明確にすることで、画面設計のシンプルさやスクロール量の最小化、ランディングページの導線、説明文の長さといった判断基準がぶれにくくなります。 ![]() 図2:ペルソナのイメージ(著者作成)
<カスタマージャーニーマップ> 「カスタマージャーニーマップ」とは、ある人物がサービスを利用する際の一連の流れを旅(ジャーニー)と捉え、時系列順に見える化する手法です。利用者とサービスとの相互作用(インタラクション)のほか、その体験中に利用者に起こる思考や感情の変化といった見えない部分も明らかにします。 特定の正しい書き方が決まっている訳ではありません。重要なことは、利用者の行動を丁寧に分解し、体験の質を損なう「ボト ルネック」を発見することです。 本取り組みではカスタマージャーニーマップそのものは作成していませんが、
といった利用者の行動を丁寧に分解しており、これらはカスタマージャーニーマップの考え方そのものです。こうした行動をたどる視点が、入力項目の削減や画面遷移の簡略化など、後の改善判断につながりました。 ![]() ---------------------------------------- 図3:カスタマージャーニーマップのイメージ(著者作成) |
4. サービスの形を具体化していく
前述のとおり、定期券Web予約システムの導入の必要性は明らかでしたが、その企画に際し、他の鉄道事業者の類似サービスをベンチマークとしたことは本取り組みの有効な参考となりました。具体的には、都営地下鉄が乗り入れをしている他の鉄道事業者と情報交換をしたり、実際に担当者自身のスマートフォンで類似サービスを使ってみたりすることで使用感を確かめました。そこで「予約できても、結局窓口で発券するなら負担は変わらない」といった使い勝手上の課題に気づきました。これらは、今回のサービスの要件検討に大きく影響しました。こうした状況理解を踏まえ、利用者が窓口での一連の操作を事前にウェブで済ませられる仕組みを整えることが有力な解決策として見えてきまし た。
定期券Web予約システムの新規導入に向けた具体的な手順や方法を模索するにあたっては、さまざまなステークホルダーと綿密にやりとりをして進めていきました。例えば局内のICT全般を担当する局CSIRTにはセキュリティ面での懸念や制約、システム構成について確認し、システム開発会社に発注する前に前提条件をクリアにしました。更に、DX推進を行っているデジタルサービス局も相談先として仕様を決めていく際にアドバイスを提供していました。このように、技術面に秀でた職員が関わることで、外注先のシステムベンダーとのやりとりもスムーズに行うことができました。
5. 利用者の視点で使いやすさを検証し、サービスを仕上げる
本格的な実装段階に入った際に、特に重視したのが 「実際に使えること」「誰にとっても迷いなく操作できること」 でした。どれほど企画が優れていても、利用者が操作の途中で迷ってしまったり、駅係員が案内しづらかったりすれば、期待された効果は発揮されません。そこで、正式なサービス提供に先立って、二度にわたるユーザビリティテストを実施し、使いやすさの検証と改善を丁寧に行いました。
ユーザビリティテストとは、実際の利用者や提供者(に近しい人物)にサービスを利用してもらい、その際のつまずきや迷いを観察することで、使い勝手の課題を明らかにするフレームワークです。利用者がどこで手を止めるか、どの言葉に迷うかをつぶさに見ることで、机上の検討では気づけない「使いにくさ」を発見します。ユーザビリティ研究の第一人者であるヤコブ・ニールセンの調査によれば、たった5人のテストでもUIの改善点の約85%が見つかると言われています。このプロセスは、企画段階で定義した課題が本当に解決されているか、想定した価値が届いているかの答え合わせでもあります。
分かりやすく言えば、演劇の「通し稽古(リハーサル)」のようなものです。台本(仕様書)を読んでいるだけでは分からなかった「衣装替えが間に合わない」「小道具が使いにくい」といった不具合は、実際に通しで動いてみないと気付きにくいものです。本番(リリース)で利用者に使ってもらう前に、リハーサルで動きのぎこちなさを修正することで、スムーズで満足度の高いサービスを届けることができます。
交通局ではこの手法を用いて、机上では気づけない利用者視点の改善点を明らかにしサービスのリリースを行いました。

図4:ユーザビリティテスト実施の流れ(出典:東京都デジタルサービス局「ユーザーテスト実施手順書」https://www.digitalservice.metro.tokyo.lg.jp/documents/d/digitalservice/user_test
5.1 第1回ユーザビリティテスト(基本機能の検証)
初回のテストは、基本機能の検証をメインに本局の職員約80名を対象に実施しました。この段階では、リリース前のβ版を用いて、「設計時の目的通りにユーザー体験(UX)が実現できているか」を確認することに主眼が置かれました。
具体的には、経路検索から購入決定に至る「重要と思われるアクション」をタスクとして設定し、操作のスムーズさを検証しました。その結果、機能面での動作は確認できたものの、以下のような初期の課題が浮かび上がりました。
経由駅が複数あるため、経路の選択肢が多く、選ぶのが難しい
プルダウンの表示が遅い
候補の表示に時間がかかる
これらは単なるシステム性能の問題ではなく、利用者の離脱を招くUX上の解決すべき課題として捉えられ、改修コストが低く抑えられる初期段階での改善の実現に大きく寄与し、β版のブラッシュアップにつながりました。
5.2 第2回ユーザビリティテスト(運用検証)
初回の改善を踏まえた第2回のテストでは、検証の規模と視点を大きく広げました。都営地下鉄101駅+日暮里・舎人ライナー13駅の駅係員を含めた約600名を対象とした大規模なテストです。元々初回のテストのみで完了とする予定でしたが、実務に即した改善点が見つかるのではないかとの仮説の下、駅で利用者に対面で案内する係員にも参加してもらうことにしました。
テストは、統計的にも信頼性の高いデータを収集する意図がありましたが、単に「操作ができるか」だけでなく、窓口で利用者に対面案内を行うプロフェッショナルの視点から、「誤解を招く表現はないか」「スムーズに案内できるか」という実務に即した検証が行われました。実際の利用シーンを細かく分割したタスク(学生区分に応じた定期券発行など)を実行することで、開発者視点では見落 とされがちな、以下のような具体的かつ実践的な意見が寄せられました。
表示される文言に表記ブレや専門用語があり混乱する
学生定期の区分(大学生/高校生・中学生)が分かりにくい
入力しづらい画面UIやレイアウト
このような大規模なユーザビリティテストを実施するにあたっての工夫として、調査協力者に対して担当者から個別に依頼するのではなく、組織的なアプローチを行いました。特に、第2回を実施するにあたっては、最初に駅の責任者に依頼を行い、そこから実際のテスターである各係員に調査への協力を呼びかけてもらいました。駅で行われる点呼や打ち合わせの中で意見を集約し、また駅の責任者から交通局へ戻すという手順を組みました。こうしてコミュニケ ーションパスを明確にすることで、テスターがテストを業務として認識するよう促すことができ、さらにフィードバックを集約しやすくしました。
十分な検証と改善を経てサービスは正式にリリースされ、その後も継続して改善が行われています。本取り組みでは、問い合わせ窓口を設けることで、利用者から寄せられる問い合わせ内容や意見を吸い上げる仕組みを構築しました。ユーザビリティテストで得られた知見は、サービスの品質を向上させるための重要な基盤となり、使いやすさを中心に据えた改善サイクルを支える役割を果たしています。
6. 利用者に伝わるように、サービス周知を設計する
サービスを正式にリリースするにあたり、交通局では利用者に新サービスの存在を広く知ってもらうことを重視していました。事前に予約をしておくことで窓口の混雑を緩和する仕組みである以上、まずは利用者に認知してもらわなければ、その効果を十分に発揮できないためです。しかし実際には、システム開発に伴う各種手続きが想定以上に時間を要したことで、当初リリースの2~3か月前から周知を開始する予定だったところ、広報期間が十分に確保できず、初年度の利用率にも影響を及ぼしました。担当者は「外部委託の手続きや仕様書の準備など、リリースまでに必要な段取りが非常に多く、当初想定より時間がかかった」と振り返っています。
それでも交通局は、できる限りの広報手段を迅速に展開し、プレスリリースの発表や公式ホームページでの告知はもちろん、地下鉄車内の液晶モニターや構内アナウンス、駅貼りポスターなど、鉄道事業者として日常的に活用している広報媒体を総動員しました。
利用者の認知が十分に行き届かず、窓口に行列が発生した際には、利用者に直接チラシを配り、その場で「並ばずに購入できる方法」として定期券Web予約を案内するという後追い型の周知も行いました。駅での対面コミュニケーションも周知の重要な手段となっていました。
こうした周知の取り組みは、翌年度以降の利用率向上につながり、定期券Web予約の利用率は初年度の約10%から翌年度には約40%へと大きく向上 しました。リリース直後の制約がある中でも、オンラインとオフラインを組み合わせた柔軟な広報活動が、サービスの普及を後押ししたと言えます。
なお、この困難を乗り越えるうえで大きな支えとなったのは、部署横断の相談先と、局内にシステムに精通した担当者がいたことでした。局CSIRTをはじめとした所管部署が、セキュリティやシステム構成の再点検を早期からサポートしてくれたほか、「必要な手続きを洗い出してくれる職員がいたことが非常に助けになった」と担当者は語っています。周囲の知見を借りながら手続きを一つずつクリアしていくことで、本取り組みは前に進みました。
Knowledge 2 “あたりまえを問い直す”東京都サービスキャンバスとは? 東京都サービスキャンバスとは、行政サービスの企画段階で提供者と利用者の双方の視点からサービスの全体像を一枚で可視化し、関係者間の認識共有に役立てるフレームワークです。行政職員が、複雑な政策立案・実行のプロセスや多様なステークホルダーと関わることを前提としながら、サービスの目的・利用者像・提供価値・手続きフロー・必要な運用体制などを一枚のシートで把握できるように作られています。 本取り組みでは、当初からサービスキャンバスを使って検討を進めていたわけではありませんでした。しかし、提供者の意見をベースに、利用者の行動を観察して課題を捉え、双方の課題を整理していき、 実際にサービスを利用するための認知施策も実施したプロセスは、結果的にサービスキャンバスが重視する「あたりまえを問い直す」という考え方と大きく重なっています。東京都サービスキャンバスは、行政サービスを検討する際に、いったん立ち止まってこれまでの視点を問い直すためのツールとして位置づけられています。一般にユーザー中心の考え方は利用者の視点が強調されがちです。しかし、行政サービスの品質を安定的に維持するためには、行政職員の業務負担を適切に減らすという“提供者側の視点”を取り入れたDXの推進が必須になります。 また、いかにサービスが改善されても、その存在が知られていなかったり、利用するメリットが伝わらなかったりすれば、当然ながらそのサービスは使われることはありません。サービス開発においてこのような施策を普及するための手段が検討から抜け落ちる事はままあります。 行政サービスには、利用者、職員、委託事業者など複数の関係者が関与し、それぞれ異なる役割や制約を抱えています。東京都サービスキャンバスは、こうした関係性を丁寧に整理し、一枚で全体像を把握できるようにし、さまざまな「あたりまえ」を問い直し、最善を検討するためのツールです。 ![]() 図5:本取り組みの「東京都サービスキャンバス」 |
7. おわりに
本取り組みは、現場起点の課題意識を出発点として、関係者の共通認識と日常的な情報連携を土台に、実際に利用する人の行動や感じていることを理解する姿勢を中心に据えて進められました。
まず、本局の職員や駅の係員から集めた多数の気づきを利用者の体験と照らし合わせながら整理し、関係者全員が同じ前提で議論できるようにまとめていきました。また、利用者像を曖昧に広げず、学生を中心に明確に限定したことも重要でした。
そして、利用者の行動を丁寧にとらえる姿勢があったからこそ、ユーザビリティテ ストで得た細かな改善点を確実に取り込み改善していくことができました。机上での設計だけでなく、日頃から利用者の対応にあたっている駅の係員など、実際の利用状況をよく知る人たちに試してもらいながら検証を重ねたことが、サービスの使いやすさの水準を押し上げたといえます。
このことは、大きな変革は、現場の気づきから始まるということを改めて示しています。まずは小さく動き、利用者や現場の声を取り込んで改善を重ねる。そして、専門知識が不足する部分は、遠慮せず周囲の部署や専門家に相談しながら補い合う。こうした姿勢がそろえば、限られた時間とリソースの中でも、行政サービスはよりよい形に変えていくことができます。同じような課題に向き合う方々にとって、本記事が一歩を踏み出す際のヒントになれば幸いです。
取組者/編著者プロフィール
東京都交通局(都営交通)は、都営地下鉄、都営バス、東京さくらトラム(都電荒川線)、日暮里・舎人ライナーなどを運営し、電気事業なども含めた5事業を展開している、東京都が経営する地方公営企業です。独立採算のもと、安全・安心な輸送サービスで東京の都市活動や生活を支えています。

関連スキル
プロジェクトマネジメント, 業務改革, 部門間協働デザイン



