■組織
大分県 日出町 政策企画課
■取り組 んだ課題(背景・目的)
日出町では、人事異動や新システムの導入があった際、マニュアルをしっかり読み込んだ職員に周りからの質問・実機操作の依頼が集中する状況が起きていた。このため、「ここにすべてのマニュアルが載っています」と回答できるようなポータルを見やすい場所に配置すべきとの提案が寄せられていた。
■進め方の全体像(体制・取組方針)
日出町では、各課のDX推進役としてアサインされている「DXスペシャリスト」による月次定例会(DX Labo)が設置され、人材育成の取組が行われている。2025年度は、メンバーからの提案をもとに複数の共通テーマが設定され、課題解決の取組が行われており、本件はそのテーマの一つである。本取組の推進役となったのは、DX Laboを運営しているデジタル戦略係のコアメンバー4名であり、これに立命館アジア太平洋大学の狩野がDX labo開催時など要所で助言やレビューを行った。
■実際のプロセス
(1) 当初提案された問題点と解決策の検討にすぐに取り掛かることをせず、いったん「マニュアルの配置」という問題を、原因分析を通じて「PCセットアップ」を巡る課題として抽象化して捉え直し、視野を広げて問題点の洗い出しを行うこととした(図)。具体的には、「アクセスの問題」「コンテンツの問題」「モチベーションの問題」の3つの要因に関係しているとの仮説を立てた。[問題の原因分析/課題の再定義(リフレーミング)]
(2) 定例会メンバーを通じて、各課の当年度の異動対象者への簡易アンケートを行い、現状の問題状況を把握した。結果を集約・整理した結果、仮説通り、問題はマニュアルの配置(=アクセスの問題)だけでなく、マニュアルの内容そのもの(=コンテンツの問題)や、自ら設定を行おうとする意欲(=モチベーションの問題)なども関係していることが確認された。[親和図法]
さらに、以下のように、役職によって問題の重点に差異があることも明らかになった。
若手職員、中間管理職は自身で設定する意欲がある場合が多いが、結局、半数以上は自分ひとりでできていない。
管理職は誰かに聞く、設定してもらう人が多く、自ら設定しようとするモチベーションが低い。
会計年度任用職員は採用されて間もないため設定のハードルが高いことが読み取れる。
また、数あるマニュアルの中で、具体的にどのマニュアルでつまずくことが多いのかも特定された。
(3) 次に、これらの課題に対する解決策のアイデア出しを定例会でグループワークとして行った。その上で、コアメンバーで解決策の補完を行い、考えられる解決策案を洗い出した。
(4) すべての解決策案に取り組むわけにはいかないため、「効果」「即効性」「実効性」「費用負担」「導入負担」という5つの観点で優先順位付けの評価を行った。評価は3つのグループで対象範囲を分担した上で、全員が自分自身の観点で行った。[マルチクライテリア分析]
(5) 集計結果を参考としつつ、解決策案一つ一つについて、3つのグループで分担し、以下の基準で実施可能性の検討を行った。
A)すぐに実施可能
B)条件付きで実施可能
C)実施有無を含め要検討
(6) また、上記でA及びBと整理した解決策については、以下を明らかにすることで解決策アイデアの具体化を図った。
How(どのようにして)
Who(主体)
When(時期・時間)
What(対象)
条件(Bのみ)
(7) 以上の結果を踏まえ、最終的にコアメンバーによって、①優先順位及び②実施可能性の2つの軸及び予算やマンパワー、ツール等のリソースの制約を踏まえ 解決策メニューを整理した。

図:問題の原因分析/課題の再定義(リフレーミング)
■使ったフレームワークと使いどころ
事前にプロセスの決めうちはせず、検討の過程で都度、それぞれの論点整理に適したフレームワークを当てはめていった。課題解決を目的としつつ、ワークを通じたDXスペシャリストのコミットメント強化とスキル習得をねらったためである。ワークによる評価結果は、あくまでも参考としての利用に留め、実際の施策としての採否は独立に行うこととしている。利用したフレームワークは以下のとおり。
a. 問題の原因分析/課題の再定義(リフレーミング):見えている問題をそのまま扱わず、より上位の視点から捉え直して本 質的な課題を再設定する手法
b. 親和図法:多様な意見やアイデアを出し合い、意味の近いもの同士をグルーピングして構造化する手法
c. マルチクライテリア分析:複数の評価軸(効果・費用・実効性など)を設定し、解決策を定量・定性の両面で比較する意思決定手法
■工夫した点・つまずきへの対応
DX Labo参加者のコミットメント強化とスキル習得に重点を置き、ワークショップでは最終回答までは求めず、短い時間を区切ってワークを行った。リソースの制約がある以上、実際に行えることは限られているので、ワークショップで得られたアイデアは参考情報として位置付けつつ、コアメンバーがより実務的な観点でアイデアの洗い出しと補完を行った。参加者のコミットメント向上と実行可能性の確保という、相矛盾しがちな要請を調和させるためのワークショップ設計である。
主に、リフレーミングや親和図法による構造化といった、視点の変換を求められる場面で、第三者視点を持つ専門家の知見が利用された。
■成果と今後の展開
人事異動時期のパソコンセットアップの改善に必要な解決策案を洗い出し、体系的に整理することができ、新年度を迎えるにあたり取り組むべきTODOが具体化された。リソースの制約上、現時点では着手できない事項についても、今後のバックログ(TODO)リストとして整理され、今後、順次対応を進めていくことが可能になった。(表)
DXスペシャリストは、フレームワークを利用した課題解決のプロセスを実際の課題を通じて体験することができた。特に、フレームワークを利用することで、明示的 には認識されていない課題を抽出し、解決に役立てるできることが確認できた。
表:人事異動期のPCセットアップの改善策メニュー
解決策 | 優先順位 |
申請をせずとも、配置された職場から、当然に必要となるシステムを事前に指定しておき、設定を行う。人事情報は、総務課から受け取る。 | A)すぐに実施可能 |
4月1日などに異動者等向けの説明会を開催し、その場で設定まで行ってしまう。 | A)すぐに実施可能 |
紙ベースで印刷できるマニュアルの準備(政策企画課で準備) | A)すぐに実施可能 |
パスワードがわからなくなったときにどこに聞けばよいかを明示する。 ※デジタル戦略係または情報セキュリティ対策協力委員 | A)すぐに実施可能 |
各マニュアルの各ページに用語の解説がある。 | A)すぐに実施可能 |
統一的な用語集を作成する。 | B)条件付きで実施可能 |
各マニュアルに用途(目的)を簡潔(1行など)に記載 ※この設定をしたら何に影響するのか。 | A)すぐに実施可能 |
みんなの広場のトップページにマニュアルページへのリンクを配置して全職員がすぐ見られるようにする(※異動時期にみんなの広場の重要なお知らせのところに掲載するなど)。 | A)すぐに実施可能 |
目次を設定する | A)すぐに実施可能 |
PC設定のチェックリストを作成し、設定の優先順位をつける。 | A)すぐに実施可能 |
デジタル戦略係が設定した場合でも、マニュアルのどこまで設定ができているかを明示する(チェックリスト)。 | A)すぐに実施可能 |
マニュアルに注意書きをする。「実際の画面と異なる場合があります」 | A)すぐに実施可能 |
「マニュアル」と「表示される画面」が違うパターンの「よくある問合せ」を周知する。または、デジタル戦略係が問合せ対応をする。 | B)条件付きで実施可能 |
DXスペシャリスト、情報セキュリティ対策協力委員、デジタル戦略係でPC設定問合せ先の明示化 | A)すぐに実施可能 |
ケース(異動や新規)別による、該当表かフローチャート(Yes/No)を作成する。 | B)条件付きで実施可能 |
「必須の設定」と「そうでない設定」を切り分ける。 ※in,outフォルダのように使う人、使わない人が存在する機能の設定。 | B)条件付きで実施可能 |
各マニュアルに用途(目的)を簡潔(1行など)に記載 ※この設定をしたら何に影響するのか。 | B)条件付きで実施可能 |
ケース(異動や新規)別による該当表かフローチャート(Yes/No)を作成する。 | B)条件付きで実施可能 |
デジタル相談会を定期的(月に1回)に開催する。 | B)条件付きで実施可能 |
来年度、基礎的な情報リテラシー研修を開催する。 | B)条件付きで実施可能 |
所属からの推薦者がそれぞれの役割を遂行できる職員にする。 ※通知(依頼)文書に明示する | B)条件付きで実施可能 |
動画マニュアルの準備 | B)条件付きで実施可能 |
PC設定のチェックリストを作成し、設定の優先順位をつける。 | B)条件付きで実施可能 |
1つのマニュアルの作業が完了したあと、続けて作業ができるようにするために、「次へボタン」などで次のマニュアルに移動できるようにする(マニュアルごとに開きなおさせない)。また、ページ数を記載する(現在のページ/全体のページ数 など) | B)条件付きで実施可能 |
マニュアルの量を一部減らすために自動設定ツールを配布する。 | B)条件付きで実施可能 |
1つのマニュアルの作業が完了したあと、続けて作業ができるようにするために、「次へボタン」などで次のマニュアルに移動できるようにする(マニュアルごとに開きなおさせない)。また、ページ数を記載する(現在のページ/全体のページ数 など) | B)条件付きで実施可能 |
マニュアルをメッセージで送付する。 | B)条件付きで実施可能 |
現在、2つあるマニュアルの掲載ページを1つに統合する。 現在は、印刷できるようにWord文書とブラウザ上で見るマニュアルが存在する。 | B)条件付きで実施可能 |
1つのマニュアルの作業が完了したあと、続けて作業ができるようにするために、「次へボタン」などで次のマニュアルに移動できるようにする(マニュアルごとに開きなおさせない)。また、 ページ数を記載する(現在のページ/全体のページ数 など) | B)条件付きで実施可能 |
運用上、稟議で「至急」として申請するよう周知をはかる(マニュアルに記載する)。 | C)実施有無を含め要検討 |
「人事異動時の電算機器の取り扱い手続きについて」を他のマニュアルと同一の場所に格納する。見やすくする。 | C)実施有無を含め要検討 |
DXスペシャリスト、情報セキュリティ対策協力委員が他職員に声掛け・OJTを行う。 | C)実施有無を含め要検討 |
各マニュアルにかかる想定時間の明示 | C)実施有無を含め要検討 |
情報セキュリティ対策協力委員の「制限(主査以上)」の撤廃 | C)実施有無を含め要検討 |
設定の優先順位をつける。 | C)実施有無を含め要検討 |
マニュアルの中で専門用語をできるだけ使わない。 | C)実施有無を含め要検討 |
「必須の設定」と「そうでない設定」を切り分ける。 ※in,outフォルダのように使う人、使わない人が存在する機能の設定。 | C)実施有無を含め要検討 |
正常に設定できたことが確認できる要素をマニュアルに追加する。 ※こうなれば最終的にOKです | C)実施有無を含め要検討 |
■これから使う方へのヒント
フレームワーク自体が何かを生み出すことはない。何よりも重要なことは検討の一歩を踏み出すことにある。今回の取組の本質的価値も、検討体制を組み、一定の手順を踏んで検討を重ねたこと自体にある。フレームワークの意義は、こうした検討の失敗を防ぎ、効果を最大化することにある。
第三者の視点を持つ専門家としては庁内の職員であっても構わない。むしろ、行政組織の力学を承知しているので、的外れなワークになりにくいというメリットもある。こうしたアドバイザーやファシリテーター役を担える人材を確保・育成していくことが重要となる。
マルチクライテリア分析の評価結果は一見、定量的・客観的に見えるが、これ自体は必ずしも直接の根拠にはならない。数値に引きずられず、あくまで判断材料の一つとすることが重要。
■文責
立命館アジア太平洋大学 狩野英司
