top of page
2025年3月31日

埼玉県深谷市

窓口BPRの実践事例から学ぶステークホルダーマネジメント

編著者:

株式会社コンセント (協力)齋藤 理栄

窓口BPRの実践事例から学ぶステークホルダーマネジメント

この記事では、深谷市の窓口BPR事例を取り上げ、プロジェクトに関係するステークホルダー(利害関係者)のニーズを捉え、関係性を構築する「ステークホルダーマネジメント」の考え方をご紹介します。このケースでは、収税課が中心となって、部門が異なる担当部署を巻き込み、横串を通した連携を進めました。その結果、市民の利便性を向上させ、職員の業務負担を減らし、業務の効率化を実現することができました。

関連フレームワーク:

行動観察, ステークホルダーマネジメント, ペルソナ

背景・問題

​ 

近年、少子高齢化や人口減少が進む中、行政サービスの現場では効率化と質の向上が喫緊の課題となっています。限られた職員で多岐にわたる業務を遂行する必要性に迫られ、職員配置の適正化や業務プロセスの見直しが求められています。

起こした変革

​ 
  • スモールスタートで段階的に多くの職員を巻き込み業務改善を進め、関わる人々の考え方や行動を変えるきっかけをつくった。

  • 行政や市民、企業など複数の関係者の立場や課題を全体的に見渡し、それぞれにとって役立つ仕組みを構想・実現した。

  • 窓口業務について、おもに行政職員と市民双方の視点から本質的な課題や解決策を考え、使いやすいサービス体験を実現した。

生み出した価値

​ 
  • 市役所の複数課で利用できる税公金の自動収納機を本庁舎とショッピングモールへ導入し、市民の利便性向上と行政職員の業務効率化を図った。特にショッピングモールへの導入では、取り扱いできる納付書の種類を4科目から8科目に増やした。

  • 税公金の支払い手続において、市民の口座振替利用を促進し申込者数を前年度比で約2倍に増加させ、市民の支払い手続の負担や行政の手数料コストを削減した。

変革のストーリー
ree

図:ステークホルダーの課題を捉え、あるべきサービス像を提示しさまざまな方を巻き込みながら変革を実現しました。

 




1.    はじめに


深谷市では他の多くの自治体と同様に人口減少が進行しており、職員数の増員が見込めない状況です。深谷市では市職員数が2006年の1,159人から2022年には982人まで徐々に減少しており、今後も人員減の傾向が続くと予想されています(出典:深谷市人事行政の運営などの状況について/深谷市ホームページ. https://www.city.fukaya.saitama.jp/soshiki/somu/jinji/tanto/1391395830946.html)

 一方で市民ニーズは多様化しており、限られた人員で増え続ける行政課題に対応しなければなりません。そこで深谷市は職員の定員の適正化を図り、定型業務を効率化し、市民相談など付加価値の高い業務に振り向けることとしました。

こうした状況に対し、深谷市では収税課を中心に業務改善の取り組みを進め、業務プロセスの見直しを行いました。その結果、従来の業務を大幅に改善し、職員の業務負担を軽減するとともに、市民にとってより利便性の高いサービスを提供できるようになりました。

 本記事では、変革のキーパーソンである深谷市収税課職員(当時)の齋藤理栄氏へのインタビューをもとに、実施した事業の内容をご紹介します。まずはじめに、背景として深谷市の業務改善の取り組みをご紹介します。



2.     段階的に周囲を巻き込み業務改善を実践


齋藤氏は、情報システム部門から収税課へと異動になり、業務において改善が可能と思われる点をいくつか発見しました。


  • 業務が標準化されていない:業務のマニュアルはあるが前任者が積み重ねてきた工夫が口頭で引き継がれている状態だった

  • 標準プロセスが効率的でない:本来もっと効率的に処理できるはずの業務について、手作業が標準プロセスとなっていた


齋藤氏はこのような状況に対して、身近な改善から始め、周囲を巻き込み業務効率の向上や働きやすい職場の実現に取り組みました。たとえば、Excelを利用して、手作業で処理されていた業務を自動化したり、課内のメンバーと協力し納付書のバーコードを活用した支払い料金の自動計算システムの構築を行ったりしました。さらに、業務のマネジメント方法の改善にも着手し、職員が休みを取りやすくしたりしました。

 齋藤氏は、こうした業務改善について、「効率化することでミスが減り、最終的に市民サービスの質の向上につながる」と、まず手近な業務改善から行う重要性を指摘します。また、「取り組みを進めるうち、次第に周囲も『変えていいんだ』『自分もやってみたい』と思うようになり、協力者が増えたことで変革が進めやすくなりました」と改善を続ける中で、周囲の職員に変化が生まれたと振り返ります。

 こうした取り組みを背景に、深谷市では「税公金の自動収納機導入」と「銀行口座振替支払いの推進」を実施しました。いずれの施策においても、ステークホルダーのニーズを捉え、価値を享受できる仕組みの実現に取り組んでいます。



3.     税公金の自動収納機導入


一点目は、税公金の自動収納機をショッピングセンターと本庁舎に設置した事業です。自動収納機を設置することで、それまで数多く実施していた現金授受対応の一部を自動収納機での対応へと移行させ業務効率と市民の利便性を向上させました。収納機導入以前、ショッピングセンターでは行政センターが窓口業務を行っており、対応できる科目は4科目(市県民税、軽自動車税、固定資産税、国民健康保険税)でした。これを本機の導入によって、取り扱いできる納付書の種類を8科目(新たに追加した科目:後期高齢者医療保険料、市営住宅使用料、学童保育料、上下水道を追加)に増やしました。


ree

写真:深谷市本庁舎に設置された自動収納機


3-1.  導入の成果