関連フレームワーク:
ナッジ検討プロセス, ペルソナ
背景・問題
社会課題の複雑化・多様化や厳しい財政事情に直面する中、限られた行政リソースでより効果的に課題解決を行うための手法が求められています。ナッジには、①職場の理解を得やすい、②モチベーションを高めやすい、③手段の汎用性という特長があり、多くの行政職員に受け入れられるようになっています。
起こした変革
8名の若手中心の職員が自主的に福井市ナッジ・ユニットを結成し、庁内からの相談対応や情報発信等に取り組む
2023年4月~2024年10月までに20事例でナッジを実施
令和6年度ベストナッジ賞コンテストにおいて、最高賞となるベストナッジ賞(環境大臣賞)を受賞
生み出した価値
大腸がん検診受診率の向上(14.6%→18.0%)
変革のストーリー

1.はじめに
近年、地方自治体においてナッジを政策に取り入れる動きが活発に行われています。本稿では、自治体組織内へのナッジの普及プロセスについて、自治体ナッジ・ユニットを結成している「福井市ナッジ・ユニット」の事例を紹介します。
2.ナッジとは
(1)ナッジの意味・定義
ナッジ(Nudge)とは、「そっと後押しする」という意味の英語で、行動経済学などの行動科学的知見を応用して人々の行動をより良い方向に促すための政策手法のことです。2017年にノーベル経済学賞を受賞したリチャード・セイラー教授は、ナッジを「選択を禁じることも、経済的なインセンティブを大きく変えることもなく、人々の行動を予測可能な形で変える選択アーキテクチャーのあらゆる要素」と定義しました。
分かりやすいナッジの例として、音の鳴る仕組みを施したピアノ階段があります(写真1)。このような仕掛けが施された階段があると、いつもはエスカレーターを利用する人でもついつい階段を利用してしまうことがあります。階段が利用されることで、結果として人々の運動の機会が増えたり、エスカレーターの電気料の削減に繋がったりするなど、自身や社会にとって望ましい行動が促進されたことになります。これがそっと後押しするナッジの力です。
写真1 ピアノ階段

(出典)株式会社ドラム,https://www.doramu.co.jp/direction/tone.html🔗
(2)ナッジの政策活用の高まり
ナッジが注目され始めて、「自治体ナッジ・ユニット」の設立数が急増しています。自治体ナッジ・ユニットとは、「行政組織内部におけるナッジの政策活用を普及促進するチーム」のことです。2019年2月に自治体初のナッジ・ユニットである「横浜市行動デザインチーム(YBiT)」が設立されたことを皮切りに、2019年12月時点では4チームのみだったのが、2024年9月時点では25チームへと増加しています(図表1)。
また、行政専門ニュースサイトiJAMPにおいて「ナッジ」の用語で記事検索を行ったところ、年間の用語登場回数は2018年に1件、2019年に14件、2020 年に20件と、2019年頃から掲載記事件数が急増しています。
図表1 自治体ナッジ・ユニット設立状況(2024年9月17日時点)

(出典)自治体ナッジシェア, https://nudge-share.jp/🔗
(3)ナッジ活用のメリット
ナッジが近年注目を集めていることには理由があります。(一社)行政情報システム研究所の狩野英司主席研究員は大きく3点の理由を挙げています[1]。
まず、ナッジによる業務改善には「職場の理解を得やすい」点が挙げら れます。ナッジは特別なサービスやシステムを必要としないことからコストがかかりにくく、結果も明確に見えるので所属長や同僚への説明・説得がしやすいと言えます。
次に、職員の「モチベーションを高めやすい」点があります。ナッジは低コストで導入できる反面、職員の主体的な関与が重要になります。自治体職員にとって住民サービスの向上にどう寄与するかを実感しながら取り組めるため、やりがいや楽しさといった魅力が大きいと言えます。
最後に、公共政策のあらゆる分野への「汎用性の高さ」が挙げられます。福祉、健康、税務、環境、防災など、自治体は住民の行動変容をはたらきかける事業を多く所管しています。一度身に付けておけばどこに異動しても役立つ万能スキルと言えます。
これらのナッジのメリットが、社会課題の複雑化・多様化や厳しい財政事情に直面している自治体職員にとってとりわけ魅力的に映っているのではないかと考えられます。
3.福井市におけるナッジの庁内普及プロセス
(1)福井市ナッジ・ユニットの活動
福井市では2023年4月、市政へのナッジ導入に取り組む推進チーム「福井市ナッジ・ユニット」を結成しました。これは、科学的に立証された政策アプローチをいち早く取り入れることによって、住民サービスの向上や行政運営の効率化を図ることが目的です。福井市のチーム結成の特徴としては、若手職員による前例にとらわれない新しい価値観や柔軟な発想に基づく事業を予算化する「チャレンジみらい予算」制度を活用している点です。首長や幹部職員からのトップダウン型の業務指示ではなく、ナッジの可能性に共感した20歳代から30歳代の若手職員のプロジェクトチームがボトムアップ型の自主提案を行い活動をスタートさせました。2024年10月現在は8名で活動しており、事務局からのメンバー公募に名乗りを上げた意欲と熱意に満ちた多様な部局に在籍する職員によってチームが構成されています。
具体的な活 動内容は次の4点です。
1点目は「相談支援」。ナッジを業務に取り入れたいと検討中の職員からの相談を受け、必要な助言を行うものです。この相談支援時に活用しているのが、(一社)行政情報システム研究所が運営するサイト「公的機関向け 課題解決ツールボックス」に掲載中の「ナッジ検討プロセスモデル」[2]です。
Knowledge1 「ナッジ検討プロセスモデル」を使ってナッジを考案してみよう!
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このツールキットを活用することで、どんな相談であっても一定の質を担保しながら理論的かつ体系的な支援を行うことが可能です。
2点目は「情報発信」。庁内職員向けにナッジを分かりやすく伝える活動です。具体的には、全職員が閲覧できる電子掲示板に「ナッジ通信」を月1回のペースで発行しています。ナッジ通信を読んだ職員が自身の担当業務にすぐにナッジを取り入れることができるよう、事例を豊富に紹介しています。
3点目は「人材育成」。ナッジを深く理解してもらうためのセミナーを年数回開催しています。オンライン配信を通じて、福井市職員に限らずナッジに関心を持つ全国の自治体職員に受講いただける機会を創出しています。また、福井県行動デザインチームfuBitとセミナーを共催するなど、自治体ナッジ・ユニット同士の連携を図り、セミナーの充実に努めています。

