福島県郡山市
「業務量調査」と「業務標準ガイドライン」による業務量の削減
(作成)米山知宏(株式会社コパイロツト) (協力)福島県郡山市 総務部 行政マネジメント課
編著者:

本事例は、福島県郡山市が業務量の削減に向けて「業務量調査」を実施し、「業務標準ガイドライン 」を策定して業務改善を行った取り組みです。
本事例の特徴は、現場の職員の視点から業務改善を進めるアプローチを採ることで、改善活動や手法が現場に浸透しやすくなっている点にあります。
■関連フレームワーク
■背景・問題
郡山市では、東日本大震災以降、業務量が増加傾向にあり、業務の効率化等の見直しが必要とされていた
また、新公会計制度の導入により、行政サービスの提供において、業務量とそれに伴う人件費などのコストをこれまで以上に意識する必要性が高まっていた
■起こした変革
業務効率化の意識が浸透
業務量調査データを、財務諸表、行政評価、BPRなど各種業務の基礎データとして活用する仕組みが定着
■生み出した価値
効率的・効果的に業務量を削減し、各課固有業務に注力する時間を確保した。
<定量的成果>
全庁共通業務の業務時間が減少(2015年度から2023年度までに総業務時間に占める割合が4.9ポイント減少)
<定性的成果>
文書関係業務:ペーパーレス化の推進による業務効率化及び費用削減、庶務担当者の負担軽減
セミナー等関係業務:動員負担の軽減、オンラインセミナー等による効率化
庁内会議等関係業務:会議レスの推進、会議の活性化
■変革のストーリー

1. はじめに
郡山市では、東日本大震災以降、業務量が増加傾向にあり、業務の効率化等の見直しが必要とされていました。また、新公会計制度の導入により、行政サービスの提供において、業務量とそれに伴う人件費などのコストをこれまで以上に意識する必要がありました。
このため、職員がどの業務にどれだけの時間を割いているのか、市役所全体として多くの時間を要している業務は何か等を把握することが重要となりました。そこで、どこで業務量が多くなっているのかを数値で把握するため、「業務量調査」を実施しました。
2. 業務量調査
2.1. 業務量調査の継続的実施が、業務上の基礎データに
業務量調査は、全職員を対象に毎年1回、2月頃に実施し、行政マネジメント課が結果を取りまとめ、当該年の8月〜9月に結果を公表しています[1]。より高精度に業務の状況を把握することだけを考えれば、毎月や毎日入力する選択肢も考えられますが、郡山市では、現場の負担も考慮し、年1回の調査としています。
また、業務量の把握は、実際の業務時間(実時間)の積み上げではなく、各職員が総業務時間(残業時間も含む)に対する業務従事割合(パーセンテージ)を入力し、業務時間を算出する形にしています。これは、各所属における業務時間の配分や、経年変化の傾向を把握できれば、業務量調査の目的として十分であると考えているためです。具体的な実時間の正確な測定は必ずしも目的としていません。
このように、業務量調査を継続的に実施する中で、調査結果のデータが業務改善意識の定着のみならず、財務諸表、行政評価、BPRなど各種業務の基礎データとして活用されている点が本事例の大きな特徴となっています(図表1)。
図表1 郡山市 における業務量調査の用途
1. 事業別財務諸表
2. 行政評価におけるコスト分析
3. その他
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(出典:郡山市資料)
2.2. 毎年調査を実施するための調査票の工夫
郡山市が使用している業務量調査のフォーマット(図表2)では、現場の入力負荷を軽減するために以下のような工夫を行っています。
部署名などの基本情報は、事務局側であらかじめ入力(プレプリント)したうえで、各部署に入力フォーマットを配布
現場職員(回答者)は、基本的には、自分自身の業務の従事割合のみを入力
超過勤務時間は、現場職員が自分で入力するのではなく、人事部門から共有されたデータをもとに、事務局側であらかじめ入力(データ抽出に間に合わない1~3月分については、現場職員が各自見込みの時間数を入力)
今年度の数値を入力するだけで前年度との比較ができるようにしている(大きな差があれば、入力時点で気づくことができる)
図表2 業務量調査入力フォーマット

(出典:郡山市資料)
このように、入力する職員の負担を考慮したフォーマットになっていることで、毎年全庁での調査実施が可能となり、包括性や継続性の確保にもつながっています。また、業務量調査が単独で存在するのではなく、その前後の工程において、必要な部署や業務と連携するようデザインされている点、すなわち全体最適の視点でデザインされている点が本事例の大きな特徴と言えるでしょう。
3. 業務標準ガイドライン
3.1. 現場職員とともに業務標準ガイドラインを策定
郡山市では、業務量調査の結果をもとに、業務標準ガイドラインである「郡山市STANDARD」を策定しました。
ここでいう業務標準ガイドラインとは、業務時間削減のための手法を職員が守るべき約束事としてまとめたものです。郡山市では、庁内共通して行われる業務のうち業務量が相対的に多い「文書関係業務」「セミナー等関係業務」「庁内会議」の3業務を対象に、タイムパフォーマンス及びコストパフォーマンスを向上させることを業務改善の目的としています。「郡山市STANDARD」は、2017年3月にVer.1.0を公開して以来、2019年4月にVer.2.0、2021年1月にVer.3.0、2023年4月に Ver.4.0とアップデートを重ねています(図表3)。
この業務標準ガイドラインの特徴は、単に業務の標準やルールを策定したということではなく、現場職員の問題意識や改善策を引き出し、現場職員とともに策定した点にあります。表紙に記されているように、まさに「みんなの声をカタチに」したガイドラインとなっています。
図表3 郡山市STANDARD

(出典:郡山市資料)
「郡山STANDARD」は、以下の流れで策定されました。
① 業務量調査を実施
② 調査結果を基に、業務量の多い3業務(「文書関係業務」「セミナー等関係業務」「庁内会議」)を選定
③ 各業務について、庶務事務や文書管理の実務を担っている担当者と標準的な業務方法を検討するための会議を開催
各所属の各担当者が感じている違和感を議論(例:◯◯の処理は不要なのではないか?)
庶務担当者等の会議を踏まえ効率的な約束事の案を作成し、既存の規則や規程などと齟齬が生じないよう、規則や規程の所管課の確認と意見調整を実施
④ 業務標準ガイドラインとしてとりまとめ
現場職員との議論内容をもとに、業務標準ガイドラインとして取りまとめる
「みんなの声をカタチに」するうえで重要だったのは、事務局である行政マネジメント課が「現場に寄り添う伴走者」であったということです。事務局の役割は、現場の背中をそっと押すように、現場に寄り添いながら一緒に課題を解決していくことにあります。「この業務はこのように効率化すべき」ということを現場に押し付けないよう意識しながらコミュニケーションをとっています。
また、業務標準ガイドラインは一度策定して終わりではなく、繰り返しアップデートし続けていることも重要なポイントです。その過程で、ガイドラインは次のように変遷してきました。
分量の削減:Ver.1.0は50ページ → Ver.4.0では10ページ弱に
スライド化:Ver.1.0は文章中心 → Ver.4.0ではスライド形式に
継続的な改善を重ねることで、現場の職員がより活用しやすい形になり、実際の業務改善の浸透・意識醸成にもつながりました。こうした取組が継続できた背景には、市長が市政を運営するにあたり、業務効率化及び改善を常に意識し、タイパ、コスパが良く、クイックレスポンスでまちづくりに取り組む姿勢がありました。市長に明確なビジョンがあるからこそ、職員の改善意識が醸成され、継続的に取組むことができています。
3.2. 業務標準ガイドラインによる効果
郡山市では、業務標準ガイドラインの策定と実際の業務改善の活動を通じて、これまでに図表4のような成果を生み出してきました。
図表4 業務標準ガイドラインによる効果
定量的効果 | 全庁共通業務の業務時間の減少(2015年度から2023年度で4.9ポイント減少) |
定性的効果 | 文書関係業務:ペーパーレスの推進による業務効率化及び費用削減・庶務担当者の負担軽減 |
セミナー等関係業務:動員による業務負担の軽減 | |
庁内会議等関係業務:会議レスの推進・会議の活性化 |
定量的な成果としては業務時間の減少が挙げられます。全庁共通業務(庶務事務等の全庁の各所属で共通する業務)の時間および総業務時間に占める割合が、次のように減少しています。
全庁共通の業務時間 総業務時間に占める割合
2015年度 831,025時間 14.0%
2023年度 572,186時間 9.1%
一方、定性的な成果としては以下が挙げられます。
「文書関係業務」:文書の照会回答業務の原則や約束事、心がけることを明確にすることによって、ペーパーレス化の推進や庶務担当者の負担軽減に繋がっています。
「セミナー等関係業務」:不要なセミナーを開催したり、安易に動員したりしないこと、また、対象者や内容に応じてオンラインセミナーや録画配信等を活用する原則を明確にすることで、動員による業務負担の軽減に繋がっています。
「庁内会議等関係業務」:会議を実施する際の約束事を明確にすることで、不要な会議を削減し、開催するとしてもWeb会議の活用により会議コストを軽減しています(会議レス)。会議開催時も、事前に資料を配布し、アジェンダを共有することで、共通認識を持って会議に臨むようになっています。資料も、席上で配布せずノートPCで見ることが当たり前になり、ペーパーレス化にも繋がっています。
しかし、何よりの成果は「業務効率化の価値観・意識」が共有され、組織全体に浸透したことです。たとえば令和元年台風の際には、日々更新される対応方法等の事務引継ぎを、共通掲示板を活用して共有する仕組みが職員から自発的に生まれたり、新型コロナ感染拡大への対応としてオンライン会議を積極的に活用したりするなど、新たな業務の枠組みへスムーズに移行できる風土が醸成されたものと考えられます。
4. 業務改革の価値観・意識を根付かせるためのユーザー目線のアプローチ
以上のような成果を生み出すために郡山市が重視しているのは、現場の職員視点に立って業務改革を進めていくことです。具体的には以下の点です。
(1)現場職員の意見を「みんなの声」として取りまとめる
業務標準ガイドラインも、現場職員の実際の業務の方法や問題意識をヒアリングしながら策定しています。現場には現場の考えがある以上、各部署の課題と、そこで実行できる改善策を持ち寄ることが重要です。
(2)事務局は「伴走者」として現場に寄り添う
事務局からやり方を押し付けるのではなく、現場からの提案を引き出すアプローチを取っています。現場でも課題は認識されており、なんとかしたいという思 いはありますが、どう解決したらよいかわからないという状況にしばしば陥っています。そのような状況においては、一方的に現場に任せてしまうのではなく、一緒に解決していくこと=事務局側が伴走することが重要になります。課題の状況を把握したうえで、解決の方向性を共有しながら、具体的な解決策を一緒に考えていくような関わり方が欠かせません。
(3)業務改善のハードルを下げ、取り組みやすい雰囲気を作る
たとえば郡山市では、業務改善を促進するために、最初のハードルを下げるアプローチとして、現場に「業務改善の提案」を求めるのではなく、「繰り返し行っている業務」を業務改善の一歩として「教えてもらう」というスタンスを取っています(図表5)。
図表5 郡山市における業務改善を促すための情報発信(カイゼン通信)

(出典:郡山市資料)
「業務改善の提案」を求めら れると、あるべき姿や正しい答えを出さなければならないというプレッシャーを受けますが、「繰り返し行っている業務」であれば、単に事実を回答するだけなので、悩む必要がありません。例えば、報告のあった業務について、行政マネジメント課とDX戦略課が連携し、RPAを活用した自動化ができるかを調査・検討します。その後、伴走型で支援を行いながら、実際の業務改善に向けた検討が進んでいくという流れです。
このように、事務局側として得たい回答を直接聞くのではなく、現場が回答しやすい問いに変換して聞くというアプローチをとっています。業務改善の最初のハードルを下げるためのユーザー目線のアプローチとして有効です。
また、最初から完璧なものを目指そうとせず、スモールスタートで始めることも重要です。まずは小さくはじめてみて、毎年見直しをしながら改善していく。その過程で好事例が生まれれば、小さい変化でも共有していく。「できるところから変えていく」ことで、ハードルを下げながら着実に業務改善を積み上げています。
5. 今後の展望
業務量調査は、大きな手間はかけずに実施できるにもかかわらず、様々な場面で活用できるバックデータを得ることができます。今後は、これを各部署の固有業務のBPRやDXにもつなげるべく、BPR研修などを通じて現場職員が業務について考える機会もつくりながら、一緒に検討していこうとしています。
また、業務標準ガイドラインは、より職員のニーズに即した内容に改訂し、さらに浸透させていくことを目指しています。職員が「これを使うと業務量削減になる」という実感を持ってもらえれば浸透していくはずであり、今後も実効性を高めるべく研究を重ねていきたいと考えています。
まとめ
本ケースの特徴的な点
全体最適の観点で「業務量調査」をデザインしている
ユーザー目線(職員目線)で業務量調査と業務改革を推進している
現場からのフィードバックを通じて、アップデートし続けている
市長の市政運営の姿勢と一貫したビジョンが継続的な活動を可能としている
[1] 【2023(令和5)年度業務量調査の結果をお知らせします 】
https://www.city.koriyama.lg.jp/uploaded/attachment/88098.pdf
【関連情報】
■取組者/編著者プロフィール
福島県郡山市総務部行政マネジメント課の業務量調査担当・郡山市STANDARD担当
福島県郡山市: 福島県の中央に位置し、東北地方で仙台に次いで第2位の経済規模を誇る東北の拠点都市であり、中核市です。首都圏から東北新幹線で約80分というアクセスの良さに加え、鉄道や東北・磐越自動車道が縦横に交差するなど、交通の利便性が高いことから「人」「モノ」「情報」がつながり、交流する「経済県都」「知の結節点」として成長を続けています。
■関連スキル
業務改革, ファシリテーション
■関連研究・事業
本コンテンツは、総務省行政管理局「行政運営の変革に関する調査研究」事業で作成されたコンテンツを、同局の許諾を得て掲載しているものです。
■掲載年月日
2025年3月31日