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2026年2月

北海道芽室町

みんなが自分ごと化。1係1DXの取組<準備中>

編著者:

芽室町政策推進課政策調整係 主査 玉堀 雄一

みんなが自分ごと化。1係1DXの取組<準備�中>

写真:芽室町から日高山脈襟裳十勝国立公園を望む(撮影:㈱KOO)

人口18,000人ほどの小規模自治体である芽室町(めむろちょう)では、すべての部署がDXを自分ごととして捉え、取り組むことを目指し「1係1DX」という取組を進めています。
 DXは、まずは担当部署自らが課題を認識し、「自分ごと」として捉えることが第一歩です。芽室町では、職員の誰もが取り組めるレベル感での「自分ごと化」を目指し、「AsIs/ToBe」のフレームワークを「カレーライスシート」と名付けて現在進行形で取組を進めています。

関連フレームワーク:

業務棚卸し, AsIs/ToBe分析

背景・問題

​ 

芽室町は2009年頃をピークにゆるやかな人口減少局面に入っています。一般行政職員数約190名に対し、類似団体で2番目に広い面積を有しており、一人当たりのカバーすべき面積も大きい状態にあります。こうした中、以下の課題が顕在化しています。

  • ますます限られていく人員で、多様化する住民ニーズへの対応、そして、広大な面積への対応が求められる。

  • 一方、現場では、ツール導入以前の現状業務への課題意識が乏しく、根強い「アナログ思考」「他人ごと」「縦割り」の風土も存在する。

起こした変革

​ 

・「AsIs/ToBe」のフレームワークを生かした「カレーライスシート」の開発:

 課題のある業務を自らの手で分解し、あるべき姿(バックキャスティング)を考えるツールとして、AsIs/ToBeのフレームワークを活用したカレーライスシートを開発した。

・徹底的なアナログ議論とカレーライスシートをベースとする1係1DXのサイクルの確立:

 比較的規模の小さな自治体だからこそできる徹底的なアナログ議論をベースとした取組のサイクルをつくり、全ての係がDXに取り組む「1係1DX」の取組へとつなげた。

生み出した価値

​ 
  • 全庁的にDXを「自分ごと」として捉える機運の醸成。

  • 52係から全部で60件の1係1DX案件が生み出された。2024年度から開始し、同年度内に、60件のうち、6割の案件で進捗が見られた。

  • こうした案件の洗い出しの後で、解決手段の一つとしてオンラインフォームを作成するツールを導入した結果、180件の手続がオンラインに移行し、2024年8月の導入から翌年3月までの8か月間で全部で23,000件の利用がなされた。短期間で多くの部署で活用が進んだ

変革のストーリー

 

1 はじめに


「いまいるところがあなたの芽室町役場」― これは、2024年3月に策定した「芽室町DX推進ビジョン」の基本理念であり、デジタルの力を活用し、窓口での対面対応はもちろん、オンラインでの対応も含めて、みなさんの「いまいるところ」が芽室町役場として機能することを目指した理念です。「あなたの」には「職員にとっても」という意味も含めて考えています。

 人口18,000人ほどの小規模自治体である芽室町では、2023年度からDX専任担当が配置され、同年度内に業務の棚卸、DXの機運醸成を行い、DX推進ビジョンを策定しました。そして、2023年度末から2024年度にかけて、「1係1DX」と題する取組において、フレームワークの手法を用いて全ての係がなんらかのDXの取組に着手しはじめました。さらに、こうした取組に必要なデジタル環境の整備も同時に少しずつ進め、具体的な成果が見え始めたところです。

 このように、総務省の自治体DX全体手順書に記載された0~3段階の各ステップを、総務省の2つの支援制度を活用しながら取り組んできました。 

総務省「自治体DX全体手順書」の各ステップ

ステップ0:DXの認識共有・機運醸成

ステップ1:全体方針の決定

ステップ2:推進体制の整備

ステップ3:DXの取組の実行

本稿は、ツール導入の事例紹介ではありません。お伝えしたいのは、

 

  • 徹底的にアナログで議論して

  • フレームワークを活用してまとめて

  • オープンにしたら

  • 全庁的に「自分ごと」になってきた

          

という事例紹介です。これらひとまとまりのサイクルを「1係1DX」として回していく取組です。特に、小規模な自治体が、限りある人材と時間でいかにして取り組んできたか、そのスケジュールや具体策、そして、現れ始めた成果についてお伝えします。

 

2 芽室町のDX推進の背景・体制


芽室町では、以下のような背景や体制を前提としてDXを推進してきました。


(1)人口減少局面と北海道特有の広大な面積への対応


芽室町は北海道東部、十勝平野にある町で、帯広市の西隣に位置します。約513㎢の広大な土地の42%が農地であり、カロリーベースの食料自給率が1,100%を超える農業王国です。食品関連企業等も多く立地し、帯広市のベッドタウンとしての機能も相まって宅地造成も進みました。未合併町であり、市街地は比較的コンパクトに中心部に集約されており、高校も公立、私立の2校があります。

 2009年頃まで人口増加が続いていましたが、その後は減少局面に入り、ゆるやかに人口減少が進んでいます。これに対し、一般行政職員が約190名です。一人当たりのカバーすべき面積は約2.7㎢となっており、単純計算でエスコンフィールド約54個分。これは類似団体で2番目に大きい水準であり、限られた職員でこれをカバーしていかなくてはなりません。なお、組織は「課」制です。


(2)DX担当の体制


2023年度からDXの「専任担当」として、企画部門の政策推進課に担当課長職と担当係長職(=筆者)が配置されました。情報システム担当は、私たちとは別に総務部門にあり、システム管理や標準化・共通化対応を担っています。特に自治体では、いわゆる「一人情シス」状態の場合も多いかと思いますが、振り返ると、このようにDXに専念できる体制が整備されていることは取組が進む大きな要因の一つであると思います。もしも、筆者がもともと情シス担当で、従来の業務に加えてのDX推進ということであれば、これからお伝えする取組の実現は難しかったかもしれません。

 自治体DX全体手順書の「ステップ2:推進体制の整備」においても、「情報政策担当部門が担ってきた業務を引き続き適切に実施する必要があること、DX進推担当部門の役割・業務の重要性を踏まえると、DX推進担当部門は情報政策担当部門と別に設けることが望ましい」との記載があり、DX推進体制として、少なくとも誰かは専念できる状態とすることが推奨されています。


(3)トップによる強いメッセージ


現町長も2期目を迎えるタイミングで、選挙公約の中でデジタル社会への対応について明記していました。また、芽室町では総合計画の実施計画の期間を町長の任期に合わせることとしており、第5期芽室町総合計画後期実施計画にも施策レベルで落とし込まれています。これらは、一担当としても高い心理的安全性で取り組める要因になっています。


3 業務棚卸からはじめ、カレーライスシートの誕生へ


DX推進にあたり「すべての業務の棚卸から始めよ!」というトップからのメッセージがありました。これは、ツール導入ありきのデジタル化を推進するのではなく、DXの主役はそれぞれの担当部署にあるという方向性(=自分ごと化していくこと)を示すという意味で、振り返ると大変重要なメッセージであったと思います。

 芽室町では、「業務棚卸」に向けて次の3つの取組を行い、この過程でカレーライスシートが誕生し、さらに1係1DXの取組へと発展しました。 


(1)まずは動いてみよう。現場25係へのヒアリング


2023年度から近隣市町で構成する「帯広圏デジタル化推進協議会」の取組が始まり、各市町のデジタル化に向けた現状調査が行われたため、調査票に回答があった部署に内容の確認も含めて、ヒアリングをすることにしました。担当参事とともに、全体の約半数に当たる25係にヒアリングを行ったところ、多くの係がツールを入れる以前のところで、従来の業務フローへの疑問や紙での運用の不便さ、繰り返される手入力といった問題を感じていることがわかりました。これはよくお掃除ロボットの導入に例えられますが、床をきれいにしてからでないとお掃除ロボットは動けないという段階の課題です。こうした現場とのヒアリングをスタート時点で経験できたことで、単なるツール導入ではないDX推進の必要性や、トップの指示である「業務の棚卸から始めよ!」の意味を実感し、職場文化として根付かせることの重要性を認識しました。また、泥臭くもアナログな議論こそ大事と実感した第一歩でした。


(2)業務委託による業務棚卸


次に業務委託の形で、一般社団法人構想日本に業務棚卸を実施していただきました。業務委託としたのは、業務委託後の内製化を見据え、いくつかのモデルケースについて、専門家の目線で業務の棚卸を実施していただき、その過程をDX担当が学び、その後は内製化していくためでした。構想日本にお願いしたのは、自治体を主要な対象として事業展開をしていることに加え、別事業で「自分ごと化会議」という取組を実施しており、最初は傍観者であった参加者がだんだん熱を帯びて自分ごととして物事を捉えていくようにマインドの部分も含めて変革を促してくれることを期待したためです。自治体業務にも精通していることから、業務フローの聞き取りなどでも背景にある住民や事業者といったステークホルダーも思い描きながら適切に現場部署を引っ張ってくれました。

 具体的な委託業務の中身としては、住民との接点の多い部署として、住民税務課、健康福祉課、高齢者支援課、子育て支援課を指定し、1課につき1つずつ、次の4つの業務をモデルケースとして業務棚卸を実施しました。モデルケース選定の段階から、どれをケースとして指定するかも含め、自分たちで考えてもらいながら進めていきました。

 

  • 住民税務課住民窓口係:書かない窓口

  • 高齢者支援課介護保険係:訪問調査、審査会業務

  • 健康福祉課障がい福祉係:日常生活用具の手続

  • 子育て支援課児童係:会計年度任用職員が複数名所属する児童クラブなどの勤怠~給与支払い事務

 

これらについてそれぞれ計6回の工程で、棚卸を行いました。DX担当としては、その後の業務棚卸を自分たちで行うため、なんとしてもノウハウを習得するという意気込みでした。現地対応の場面に密着し、職員との会話の展開や、業務の可視化の方法、そして、「自分ごと」として捉えてもらうための働きかけ方などを学びました。DX担当としての財産になることばかりでした。 

業務棚卸の進め方


 写真1:業務委託として実施した業務棚卸の様子


(委託形式)

先に示したとおり、その後の内製化を見据えていたため、「業務棚卸アドバイザー業務」という名称で業務委託。実施後の内製化を見据えしており、「あくまでアドバイスをしてもらう。手を動かすのは自分たち。」というスタンスで取り組んだ。

 

(第0回:事前に内部で)

  • 業務フロー様式に沿って業務フローをまずは自分たちで作成

 

(第1回:現地開催)

  • 現状把握、解決したいポイントの洗い出し

-実際の業務の現場で、委託先と担当者が提出済みの業務フローを確認しながら現場観察

-現場観察をもとに改善ポイントを共有、すぐにできることは即改善

 

(第2回:オンライン)

  • あるべき姿の見える化

-あるべき業務プロセスについて、委託先からの案をベースに議論

-自発的な変革に向けた事業者からの問いかけをもとにあるべき姿を具体化

 

(第3回:オンライン)

  • あるべき姿の改善ブラッシュアップ

-外部の有識者にもアドバイスや事例を共有いただき、第2回で描いたあるべき姿をブラッシュアップ

 

(第4回:現地開催)

  • 最終成果物の制作へ

-あるべき姿に向けて今後の取組プロセスを明確化

-中長期的に庁内で検討すべき事項を洗い出し

 

(第5回:成果報告会)

  • 事業者と理事者による座談会形式での成果報告会

-4業務についての棚卸の結果及び今後に向けた取組の方向性を報告

 

このように4業務同時並行で、事前の内部での業務フロー作成を含めて6回の工程で成果報告会までを実施しました。

 業務棚卸の過程で、すぐに改善できるものは即対応がなされました。また、予算時期等も睨んだスケジュールとすることで、必要なデジタル導入についても考慮した形で進めることができました。業務棚卸とそれをベースにしたあるべき姿の描き方、そして、あるべき姿に向かってどのように進めていけばよいかについて、担当部署にとっては明確になったとともに、内製化を目指すDX担当としても学びを深めることができました。


特に今回、棚卸を4つの業務で実施したところ、アプローチの方法に2種類あることがわかりました。一つは、ある程度このデジタルツール利用を想定した上で、そのツールをどう既存業務に組み入れ込んでいくかを考えていくアプローチ方法。もう一つは、根本的な課題解決に向けて、そもそも自分たちがどうしていきたいのかという軸づくりから考えていくアプローチ方法です。今回の棚卸では、前者が、障がい福祉係の日常生活用具の手続、児童係の会計年度任用職員が複数名所属する児童クラブなどの勤怠~給与支払い事務にあたり、後者が、住民窓口係の書かない窓口、介護保険係の訪問調査、審査会業務にあたりました。

 ある業務について、どちらのアプローチが向いているかの判断基準としては、業務の細かさにもよるところが大きいかと思います。前者は、ピンポイントに絞った案件、後者は、業務全体を踏まえた案件というところから判断してもよいかと思います。


ただ、その後、内製で進めていく中で、実際には、前者だと思って進めた案件も、担当部署とコミュニケーションを図っていくと、その案件の対象である住民に対してどうサービス提供したらよいかなどが少し曖昧で、明確な軸がない場合がありました。そうした場合は、後者の軸づくりを先に行ってから次に進めるというケースも出てきました。時間はかかりますが、そうして軸を作っていったほうが、DX担当のフォローも少なく、自分ごととして進んでいく印象もあります。

 また、第5回の成果報告会では、事業者からの「あるべき姿に向かっていくためには〇〇のようなデジタルツールが必要である」という指摘も、外部の声として理事者に伝えてもらうよう段取りしました。

(3)支援制度をフル活用


【経営・財務マネジメント強化事業を活用したアドバイス支援】


(2)の業務棚卸の開始よりも遡ること数か月、新年度(2023年度)からDX推進を行うことが決まり、3月の人事異動の発表があった段階で、総務省の「経営・財務マネジメント強化事業(登録されたアドバイザーを無償派遣する制度)」に申し込みを行いました。これは、この強化事業を別事業(新庁舎建設へのアドバイス支援)で活用していた職員からの勧めがあったもので、ノウハウ・予算不足の中、藁をもつかむ思いで行ったものでした。本事業では、山形巧哉さんにアドバイザーをお願いしました。山形アドバイザーは元北海道森町の職員。自治体におけるクラウド運用の先駆者であり、特に庁内ネットワークの構築や、小規模自治体に向けたクラウド運用、オープンデータ運用に精通しています。退職後は、CIO補佐官やアドバイザーとして全国各地の自治体に関わられています。

 この事業は、支援回数も十分に確保されており、何をしてよいかわからないという自治体の方々にもおすすめの制度ですが、あくまでも「支援」です。「どうしたらいいでしょうか?」という丸投げの質問をするだけでは何も進みません。私自身も「自分たちの状況がこうだと思うので、こうした方向性でやっていきたいと思いますが、どう思いますか?」という聞き方を意識しています。

 山形アドバイザーからは、最初に自治体DXの位置づけや芽室町の例規に照らして不足がないかといった基本的なアドバイスに加え、これからDX推進を行う上で「なるべく取組をオープンにしよう」というアドバイスがありました。担当者がほぼ毎日ブログ形式でDXの取組を発信している自治体もあります。芽室町でも、庁内発信の第一歩として、まずは新規事業である「DX推進事業」を進めるに当たっての考え方や大まかな方向性を「DX推進事業 令和5年度の取組」という形でまとめ、幹部職員で構成する全体庁議で共有し、その後、庁内共有を図りました(図1)。

 

図1:「DX推進事業 令和5年度の取組」中の1ページ

 

【地域情報化アドバイザー制度を活用した全職員向けBPR研修の実施】


山形アドバイザーとの定期的なミーティングの中では、自治体DX全体手順書に沿った対応についてもアドバイスをいただいており、BPRの重要性について話が及ぶ中で、委託業務として(2)の業務棚卸を進めていることも共有しました。

 その中で、業務の棚卸にしても、BPRにしても、自治体職員が苦手な「バックキャスト」で考えることが一つの重要な要素になるので、その研修を行ってはどうかとの提案をいただき、職員の階層に応じた(管理職と一般職に分けた)研修として実施しました。講師は同じく山形アドバイザーにお願いすることとし、「地域情報化アドバイザー制度」を活用して実施しました。

 この研修では、機運醸成と、BPRの技術習得、特にバックキャスト思考を身につけるという二つの狙いを定めました。機運醸成の研修としては、管理職と一般職に向けて、それぞれの目線に合わせて実施していただきました。

 また、BPRの研修は希望する職員に実施しました。ここでは「AsIs/ToBe」のフレームワークの手法を「理想のカレーライスをつくる」ことに例えてグループワークで学びました。「あるべき姿」を先に描く「バックキャスト思考」はなかなか難しい考え方ですが、それをカレーライスづくりに例え、「現状のカレー」に対して、まずは「理想のカレー」(あるべき姿)を描く。そして、なぜそのカレーが良いのか考える(目的)。そうすると、現状とあるべき姿との間のギャップが明確になる。このギャップが「問題点」で、その問題を解決するために考えるべきタスクが「課題」であると整理できます。

 この研修を行うまでは、多くの職員が「Aという問題に対して『〜システム』を使って解決したらよい」という「解決策」ありきの思考回路になっていましたが、カレーライスシートに整理する過程では、「解決策」は出てきません。「課題」をきちんと明確に設定できて、初めてその解決策が「○○ツールを入れる」ことになるのだということを学びました。いきなりカレーライスシートの欄外にある「解決策」ありきで物事を考えていた自分たちにとっては非常に大きな衝撃で、その後の1係1DXにおける業務改革のベースとして、きちんとAsis/Tobeをバックキャスト思考で整理することが重要であるという認識を持つことにつながりました。

 こうした研修を通じて、芽室町では「AsIs/ToBe」のフレームワークを「カレーライスシート」と呼び、バックキャスト思考であるべき姿を描き、課題を見える化していくために生かしていくことにしました(図2)。これが「カレーライスシート」の誕生の経緯です。

 

図2:芽室町のカレーライスシート


4 1係1DXの取組へ


ここまでの準備期間を経て、カレーライスシートという武器を得て、芽室町では、すべての係が最低1つのDXに取り組む「1係1DX」という取組を始めました。全ての係が少なくとも1つは業務改革に取り組み、小さな成果でも良いので、DXの効果を実感する、そして、自分ごととし、さらに違う業務にも広げてゆく・・・そのような「DXを組織の文化にする」ため取組です。

 この取組は以下の流れで行われました。


(1)すべての係とのヒアリング(その1)


2023年度の年明け2月から動き始め、まず実施したのが、すべての係とのヒアリングです。3(1)での現場ヒアリングで得た感触や、その後の(2)の業務棚卸を体験した経験から、コミュニケーションなくして各部署の行動につなげていくことは難しいという確信を得たため、すべての係とヒアリングを行いました。

 ヒアリングの手法としては、1課1時間とし、主に係長職に出席を依頼。負担感を考え、短時間で集中して行うことにしました。ここでのポイントは「デジタルありきのヒアリングをしないこと」であり、業務上の困りごとを聞く場としてのヒアリングを強く意識しました。そして、ヒアリング事項を可視化すべく、まとめ作業にも注力しました。この作業は、それぞれの部署の課題をDX担当として把握するため、あえて手作業でエクセルにまとめました。ヒアリングの結果、52係から全部で182個の困りごとの項目があがりました。この内容は庁内でオープンにしています。


(2)カレーライスシートにまとめよう


ヒアリング(その1)の内容を参考にしながら、1係一つのカレーライスシートの提出を依頼しました。あえて3~4月を作成期間とすることで、異動した係長も異動先でカレーライスシートが待っていますので、しっかり考えてくれました。結果、52係から60枚ほどのシートがあがってきました。

 ただ、すべての職員がカレーライスシート誕生の研修を受けたわけではないので、「あるべき姿」が単に現状の裏返し表現になってしまったり、「問題」と「課題」の区別がつかなかったりといった状況も明らかになり、修正作業が必要なシートもありました。


(3)すべての係とのヒアリング(その2)


提出のあったカレーライスシートをベースに、改めて、すべての係とヒアリングを実施しました。(2)で述べた修正作業が多くの係で必要であったため、Asis/Tobeの整理方法を共有する場としても位置づけ、課題や問題の整理や、あるべき姿の解像度を上げるなどの作業を一緒に行いました。結果、少ししずつ「自分ごと」として捉えている雰囲気が実感できるようになってきました。


(4)取組の実行


ここまでの経過を経て、おおよそ1係1DXとして取り組むべき項目の可視化ができたので、それぞれのカレーライスシートをもとに、いよいよ全体手順書の「ステップ3:DXの取組の実行」として、取組を推進していくよう依頼を行いました。

 しかし、解決のための特別な予算枠があるわけではありません。あくまでも通常の業務の中の1つの改革としてDXを捉え、予算要求についても、各部署が実行計画に計上し、審査を経て予算要求につなげていくという通常の流れどおりに進めていくこととしています。DX担当は実行計画時期にデジタル関連予算を集約してまとめ、審査部署(政策、財政)に共有を行っています。こうすることにより、旧デジ田交付金、旧新地生交付金、現地域未来交付金等のデジタル実装タイプの国の交付金の活用をスムーズに行うことができるほか、全体把握につなげることもできます。


(5)カレーライスシートを俯瞰してまとめてみる


カレーライスシートに基づく解決への取組を依頼したものの、なかなかすぐに解決というわけにはいきません。課題解決のためのデジタルツール不足もやはり明らかになりました。また、コミュニケーションの手段も20年来のグループウェアツールしかなく、チャット形式のような複数人での同時コミュニケーションが困難な状況にあるなど、デジタルコミュニケーションへの課題も顕在化しました。

 一方で、ヒアリングを重ねる中で、多くの部署の問題や課題に共通点があることがわかりました。手入力、目視での転記、会議録の作成といったアナログな部分の問題点や、オンライン手続、地図の活用、ペーパーレスといった課題への対応などの共通点です。そこで、改めてカレーライスシートを整理することに取り掛かりました。町全体の問題・課題を整理することと、芽室町に適したツール選定にも役立てたいと考えたためです。

 こうした町全体の問題・課題をエクセルに分類をつけてまとめ、それをテキストマイニングツールに読み込ませて文字の大きさで重要度を可視化したり、関連性がある項目同士を線でつないでみたりと・・・オリジナルの内容ですが、こうした作業を行うことで、大きく次の8つの分類にまとめることができました。これを「1係1DX取組項目まとめシート」としました(図3)。


(8つの分類)

  ①オンライン手続

  ②GIS活用

  ③オープンデータ

  ④文書保存のデジタル化

  ⑤AI活用

  ⑥Mポイント(地域通貨)活用

  ⑦PMH(Public Medical Hub)

  ⑧楽らく窓口

 

図3:1係1DX取組項目まとめシートの表紙

 

ここでもオープンにすることを大事にしました。これはホームページに公開していますので、どなたでも見ることができます[1]。オープンにした結果として、庁内の横連携のきっかけができたほか、ホームページを経由して、芽室町の課題解決にマッチする事業者からの提案や、公的な機関誌や他自治体から問い合わせをいただく機会も増えてきました。


(6)課題解決への伴走とツールの導入


こうした取組を通じて、「解決策」を考えていくと、ツール以前の部分で解決できてしまうこともたくさんあるのですが、やはり、デジタルでの解決にたどり着く案件もたくさんあります。

 全体最適でデジタルでの解決に使えるツールはなんだろうと考えた結果、特別なプログラミングへの理解がなくてもフォームやアプリが作れる「ノーコード・ローコードツール」に行き着きました。芽室町では、1係1DXのサイクルで出てきた課題を解決するための「手段」として、2つのノーコード・ローコードツールを導入しました。一つは、主にフォーム作成に特化したもの。もう一つは、データベースとしても活用でき、決裁機能もあり、アプリ作成を強みとするものです。これに従来から用いていたLINE公式アカウントのAPIツールを組み合わせていくというスタイルに至りました。フォーム作成に特化したものは、導入当初から全職員が作成できるものを導入し、もう一つのアプリ作成を強みとするものは、2024年度に一部導入を経て、2025年度から全庁展開を進めています。

 また、前述した課題にもあったとおり、庁内のデジタルコミュニケーションの変革のため、グループウェアの刷新を行いました。


(7)1年間の取組を経て、全係ヒアリング


こうした1年間の取組を経て、新年度になり、改めて全係とのヒアリングを実施しました。設定した1係1DXも案件によっては、すぐに解決できるものもあれば、中長期的に解決していかなければならないものもあり、また、情勢によっていったん進めなくなるものもあります。そうした案件を整理し、2025年度の取組について共有するヒアリングを実施しました。業務多忙な中にも、1時間という短い時間の中で、その課に所属する係の係長職を中心に集まってもらい、ヒアリングを実施しました。このヒアリングを通じて、解決状況を可視化し、1係1DXとして上げた案件を続けていくのか、新たな案件を検討していくのかを決めていきます。


(8)状況を可視化し、次のサイクルへ


(7)のヒアリングによって、解決が図られた案件も出てきました。全体では、6割の案件が何らかの形で前進していることが判明しました。

 これらのヒアリング結果の整理には、DX担当自身も(6)で導入したノーコード・ローコードツールを活用するようにし、伴走支援できるよう自分たちも使いこなすことを意識しています。解決が図られた案件については、時間削減、経費削減、業務の正確性の向上、住民満足度や利便性の向上、KPIや目標数値の向上・達成の観点から数値化して、成果を可視化することにも取り組んでいる最中です。


(9)課長職による課長職のための1on1


取組を進めていくと、部署間での取組やDXそのものの捉え方への差も感じる場面が出てきました。芽室町は冒頭述べたように「課制」であり、DXの担当も係長職である著者と、課長職である参事の体制で取り組んでいます。

 組織として対応していくには、それぞれの立場を理解し、階層を合わせた地道なコミュニケーションが欠かせません。取組を進める中、課長職である参事が、すべての課長職と個別に1on1ミーティングを実施しました。そこでは、


  • すでにできあがっていた芽室町DX推進ビジョンに示す「DよりもXが大事であること」

  • 「Xを踏まえて必要に応じてDをしっかり活用していくこと」

  • DXの最終目標は、「住民サービスの質と信頼性の向上」であり、利便性に加え、満足度・信頼感の向上が重要であること

  • 職員の負担軽減と生産性向上にもつなげなければならないこと

  • 定型業務の削減を通じて、職員が「人にしかできない業務」に集中できる環境を整えていこう


といった点を改めて共有しました。

 そのうえで、1係1DXの取組の推進の働きかけ、DXに関しての課長職のマネジメントの方向性のすり合わせ、そして、意見交換を実施しました。意見交換では、それぞれの部署特有の悩みを共有しながらも、このタイミングでのDXなくしては、次代に向かっていけないという方向性のすり合わせができました。それ以外にも、生成AIの活用や刷新したグループウェアによるデジタルコミュニケーションの改善といった分野についても言及があり、認識の共有とさらなる意識醸成につながったと思います。結果として、少なくとも芽室町では、現場からボトムアップで上がってくる業務改革の種を咲かせていく過程で、枯らせてしまうことはあまりないように感じます。


(10)サイクルの確立と少しずつ生まれる成果


こうしたヒアリングによる徹底したアナログ議論とそれを整理するカレーライスシートを使って、業務改革の種を生み出し、伴走しながらツールを用いて改革を形にしていくサイクルを確立しました(図4)。(8)に記載した成果の可視化の手法や各現場部署の案件への伴走の仕方などは、まだまだ手探りでありますが、「自分ごと化」が進み、業務を見直したうえで、必要なデジタルを活用していこうというDXの機運は生まれており、少しずつ形になる案件が増えてきているという状態です。

 DX担当としても、それぞれの現場部署から相談を持ちかけられる機会が増えてきており、嬉しい悲鳴を上げています。また、フォローの形もできあがりつつあり、それに伴って成功事例も増えてきているところです。特に最近では、①まずは現状のフローを描く→②そのフローをベースに現場部署とDX担当が壁打ちのような形でさらに解像度を上げる→③そのうえで、カレーライスシートにあるべき姿、目的、問題、課題を整理する→④目指すべきフローを作成する→⑤フローの中でデジタルを取り入れる部分で仕組みを構築する→⑥できあがってきたらテストする→⑦現場部署内で共有や承認を得る→⑧本番運用、という形でスムーズに進められる場合が増えてきています。

 現場部署では、⑤〜⑦の取組と同時並行で必要な例規や要綱の整備を行う場合もあります。①や④でフローを描く際は「BPMNを用いてみる」といったことや、⑤のフェーズでは生成AIを活用する場面も増えてくるなど、取組を開始して2年ほどであるにもかかわらず効率的に進めるための手法がどんどんそろってきており、現場部署の職員とともにこうした手法を試しながら進めることで、お互いのスキルアップにもつながっています。

 

 図4:1係1DXサイクル

 

5 芽室町DX推進ビジョンを策定


1係1DXに加え、DX推進ビジョンの策定にも同時並行で取り掛かりました。上記の(2)のカレーライスシートの作成依頼を出したくらいのタイミング(2024年3月)で、ビジョンを無事策定できたことになります。同時並行で取り組むことで、着手時点でビジョンに必要な方向性をある程度定めやすい状態で進めることができました(図5)。

 町の総合計画の実現を補完する手段としてのDX。芽室町では、地域に対し、新たな価値と豊かさを創造していくためのDXという部分を大事にしており、ここから基本理念「いまいるところがあなたの芽室町役場」が生まれました。また、カレーライスシートで学んだ「バックキャスト思考」も取り入れ、農業王国らしく「未来を耕していく」というメッセージを込めました。

 自治体によっては、DX推進計画やロードマップの形で行動計画を策定しているところもあるかと思います。芽室町としては、この分野の動きが非常に早い中で、計画という形で詳細な内容まで決めるよりは、目指すべき方向性くらいの粒度で「ビジョン」として定めるという判断をしました。いずれにしても、ビジョンや計画、ロードマップといった「その自治体がDXを通じて目指すべき方向性」は定めるべきだということと、種々のDXの取組を進めながら同時並行でビジョンを策定したことが、ビジョンを策定すること自体が目的化せず、できあがったビジョンに沿ったDXを進めやすいという結果を生み出していることをお伝えしたいです。

 こうしてできた芽室町による、芽室町のためのビジョンがみちしるべとなっており、私自身も、ビジョンをいつもそばに置いて、日々取り組んでいます。

 

 図5:芽室町DX推進ビジョンの一部 [2]

 

6 さいごに


(1)DよりもまずはXから取り組んでみよう


様々な部署の職員が日々の仕事を抱えながらも、DXの取組を少しでも「自分ごと」としてとらえることができるよう、アナログの対話を重視し、フレームワークという具体的な手法を用いて関わってもらいました。また、できるだけオープンにすることにひと手間をかけることで起きた変化もお伝えできたかと思います。なかなか普段の業務の中で「オープンにする=発信」までできないと思いますが、「発信するまでが業務」と捉えてはいかがでしょうか。そこまでしてもオープンにすることのインパクトは大きいです。カレーライスシートを使って現場の職員と会話をしてみるところから、ぜひ、試してもらいたいと思います。


(2)とはいえ、Dは大事! ~実際に表れてきた効果とこれからの歩み~


自治体DX全体手順書のステップ0~2を整えて、ステップ3を迎えた芽室町では少しずつ成果が見えてきました。不足するツールを導入した結果、水を得た魚のように短期間で多くの部署で活用が進んだものもあります。オンラインの手続件数の急増などの結果も生まれており、180案件の手続がオンラインに移行し、全部で23,000件の利用がなされました。まさにタイトルのとおり、「みんなが自分ごと」に向かいはじめたところです。

 芽室町のDX推進は、内容的にとても高度なことをしているわけではないことを感じていただけたかと思います。粘り強く、泥臭く現場と対峙するという行動をとってきたということに尽きると思います。また何もかもうまくいっているわけではなく、まだまだ根強い「アナログ思考」や「他人ごと」、「縦割り」も残っており、これらに対峙しながら、少しずつ歩みを進めています。なかなか言えないような失敗も経験しました。ある部署に伴走支援をし、デジタル導入の意思決定の最後の場面で、その話がなきものとなってしまったということもあります。しかし、これも振り返れば、コミュニケーション不足に起因すると分析することができ、その後の学びにつながっています。少しずつ職員からの相談も増え、いろんな現場部署と共創する場面が増え、じわじわと成果に結びついてきているという実感を得ています。

 もし、こうした泥臭くアナログな手法が、自分の自治体にも合うやり方かもしれないと感じていただけたとしたら、大いにまねしていただきたいと思います。DXは競争より共創ですので、芽室町の事例で聞いてみたいことがあれば、気軽にお問い合わせください。


[1] https://www.memuro.net/administration/soshiki/seisaku/dx/2024-1kakari1dx.html

[2] https://www.memuro.net/administration/soshiki/seisaku/dx/2024-03-memuro-DXvision.html

取組者/編著者プロフィール

北海道芽室町政策推進課政策調整係 主査 玉堀 雄一(たまほり・ゆういち)


2010年、芽室町役場入庁。総務課総務係、商工観光課観光物産係、政策推進課広報広聴係を経て、2023年4月から政策推進課でDX推進に携わる。課長職である上司と2名でDXを担当。コロナ禍で担当したLINE公式アカウントの構築で、デジタルに目覚める。「できることを“自分ごと”として」がモットー。



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本コンテンツは、総務省行政管理局「行政運営の変革に関する調査研究」事業で作成されたコンテンツを、同局の許諾を得て掲載しているものです。

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