関連フレームワーク:
インセプションデッキ, BPMN
背景・問題
慢性的な人手不足や業務の属人化により、業務効率化が課題
新技術導入も職員が使いこなせない、ベンダーロックイン等の課題もあった
起こした変革
職員自らノーコードツールで業務改善プロジェクトを実施し、業務効率化を達成
アジャイルなアプローチで関係者のコミットメントを醸成
生み出した価値
職員のITリテラシー向上:研修やワークショップによりITスキルが向上
業務効率化:空調設備点検アプリで作業時間を削減
変革のストーリー

職員リテラシー向上:ノーコード研修、BPMNワークショップ、小規模プロジェクト試験実施(令和4年度・5年度)
実業務への適用:建設整備課の施設管理業務効率化プロジェクト開始(令和6年度)
成果と次ステップ:空調設備点検アプリによる業務効率化の実現、今後は対象業務拡大とノウハウ展開を予定
1. 背景
福井県高浜町でのDX推進の経緯
高浜町では、慢性的な人手不足による業務の集中や業務の属人化が発生し、デジタルの活用による業務効率化が求められてきました。しかしながら、新しい技術を導入しても職員が使いこなせなかったり、導入したシステムへのベンダーロックインなどの課題がありました。
これらの課題を解決するため、高浜町では令和4年度より職員に対する教育や支援を通じたDX推進に取り組んでおり、令和6年度には、実際に職員自らによるノーコードツールによる業務効率化プロジェクトが実施されました。
職員リテラシーの向上(初年度および二年目の取り組み)
DX支援の初年度および二年目では、自治体職員のITリテラシー向上を目的とし、ノーコード開発ツールの導入研修やBPMN(Business Process Model and Notation)を活用した業務プロセスの可視化ワークショップを実施しました。年度ごとにメンバーの一部入れ替えを行い、のべ20名が参加しています。
ノーコードツールの導入研修の実施
職員が自ら業務アプリを作成できる環境を整えるため、ノーコードツール(kintone)の基礎講習を実施しました。実際に簡単なアプリを作成するワークショップを通じて、ツールの活用方法を体験できる機会を提供しました。
業務プロセス可視化ワークショップの実施
BPMNを活用して、既存業務の流れを整理し、業務の課題やボトルネックを明確にする手法を学びました。特に、手続きの重複や不要な確認作業の削減が、職員の負担軽減への早道であり、それを可視化するための手段としてBPMNが有用であるとの理解が促進されました。
小規模業務改善プロジェクトの試験実施
「宿直業務」「給付金申請」「補助金管理」など、簡単な業務改善のプロジェクトを小グループで試験的に実施し、現場の職員がデジタル技術をどのように活用できるかを確認しました。試験の結果、業務に詳しい職員と、kintoneなどツールの操作が得意な職員のペアでの活動がうまく行くことがわかりました。
実業務への適用(三年目の取り組み)
ここまでの活動を踏まえ、三年目となる令和6年度に、実業務への適用の第一弾として、建設整備課の施設管理業務の効率化を目的としたプロジェクトが開始されました。
2. プロジェクト概略
建設整備課の施設管理業務は、主にExcelと手作業で運用されており、大きく5つの業務で構成されています。
公共施設点検
空調設備点検
施設管理台帳更新
設備点検委託
修繕・工事
高浜町内に点在する庁舎や学校、公園など公共施設内の工事や修繕、およびその契約の管理だけでなく、エアコンなどの空調設備の点検記録までを含む幅広い業務です。現在は建設整備課の限られた職員が他の業務との兼任で担当しているため、業務の負担が課題となっています。
3. プロジェクト推進アプローチ
自治体に限らず、行政職員が業務改善プロジェクトを進めようとすると、次のようなことが問題になりがちです。
効率的にプロジェクトを運営できるか
兼任かつ業務の合間で仕事を進める必要があるため、効率よく無駄ない仕事の進め方が求められます。
関係者を巻き込めるか
せっかく開発しても、使ってもらえなければ意味がありません。そのためにも、関係者を多く巻き込み、自分事としてプロジェクトを捉えてもらう必要があります。
今回の業務効率化プロジェクトでは、これらの問題に対応するために、アジャイル開発の手法を部分的に採用しました。アジャイル開発は、優先度の高い機能から段階的に開発・リリースする、ユーザーからのフィードバックを重視するソフトウェア開発手法であり、世界中のシステム開発で利用されている方法論です。
今回はアジャイル開発における原則やプラクティスを、自治体の実態とDX推進活動での学びに合わせて取り込んだ、ミニマムなアプローチをとりました。ここでのミニマムとは、「実際に効果がある可能性が高く、現場でも受け入れられそうなやり方に厳選した」という意味合いです。
ミニマムなアジャイルアプローチ
小さく始める
関係者が多い業務やシステムの変更には反対意見があったり協力や関心を得ることが難しいことがあります。そのため、小規模な成功事例を積み重ね、徐々に組織内での受容度を高めるようにしました。施設管理業務においては、真っ先に実際に点検を行う現場職員にアプリを触ってもらうなど、早めに巻き込むことで活動への理解と自分事化を促し、スムーズにプロジェクト進めることができました。
毎週成果を確認する
業務担当・開発担当・外部アドバイザー(岡島)が毎週オンラインで集まり、プロジェクトの進行状況を確認します。単なる進捗報告で終わらずに、実際に動くアプリケーションをデモできる状態に持っていくことが重要です。これにより、段階的にできることが積み上がり、アプリケーションの機能が充実していきます。
ペアでの開発
これまでの2年間の活動での成功体験を元に、業務担当と開発担当のペアで開発を進めることにしました。これにより、それぞれの強みを活かし、効率的かつスピーディーにプロジェクトを遂行することができました。
インセプションデッキの活用
プロジェクトの開始段階で、インセプションデッキと呼ばれる、プロジェクトの目的や目標、関係者、リスクなどを明確にするためのフレームワークを活用しました。特に、自治体特有の状況や課題を踏まえ、インセプションデッキの内容や項目をカスタマイズすることで、より効果的な活用を実現しました。これにより、関係者全員が共通認識を持ち、プロジェクトの方向性を統一することができました。
プロジェクト進行の可視化
自治体では利用できるサービスやツールが限られるので、連絡やタスク管理にもkintoneを利用し、極力効率化しました。
課題の可視化と優先順位決め
また、プロジェクト開始前に業務それぞれをBPMNで可視化することで、改善したい点を明らかにするだけでなく、アプリ化に着手する順番(優先順序)を決定しました(写真)。これにより、「小さくはじめて毎週成果を確認する」アジャイルアプローチをスムーズに開始することができました。

写真:BPMNを使って業務効率化に関する議論を行ったときの写真
ちなみに、BPMNで業務を可視化する際には、初年度に実施したBPMN研修やワークショップでの活動成果(研修資料や成果物)が役に立ちました。可視化を担当した職員からは、BPMNで業務を整理することで、業務効率が悪いポイントがクリアになっただけでなく、業務全体を俯瞰した図があることで、今後発生するであろう業務の引継ぎにも役立ちそうだとのフィードバックがありました。
4. 具体的な工夫ポイント
本事例では、アジャイルアプローチのうち、インセプションデッキの活用と、プロジェクト進行の可視化について具体的な工夫ポイントを説明します。
インセプションデッキの活用
インセプション デッキを自治体の業務に適した形にカスタマイズし、関係者全員が共通の理解を持てるようにしました(図表1)。具体的には、以下のような工夫を行いました。
用語の補足
一般的なインセプションデッキではIT企業向けの専門用語(=カタカナ用語)が多く含まれていますが、自治体職員にもわかりやすい言葉で補足しました。例えば、「エレベータピッチ」には「首長に説明するとしたら」との補足を追加しています。
多段階のゴール設定
「我々はなぜここにいるのか(意義・ゴール)」には、goodとbestの2段階のゴール設定を書けるようにしました。これにより、「小さく始める」というアプローチをより具体的にイメージできるようになりました。
具体例


図表1:インセプションデッキ(自治体向けカスタマイズ)の一部
職員の反応
インセプションデッキを利用することのメリットについて、実際に業務に携わった職員からは次のような反応がありました。
「ゴール」を関係者間で明確に共有できたのが良かった。
普段の業務ではやることをアピールすることがないので、「関係者にアピールするとしたら」を考えることで、アプリの実現イメージがクリアになった。
「首長に説明するとしたら」のパートで、名前(施設MAN)を決めることで、今回のプロジェクトに愛着を持てるようになった。通常業務利用するシステムや仕組みに名前を付けることはないので新鮮だった。
