関連フレームワーク:
フューチャー・デザイン
背景・問題
矢巾町では、以下が課題とされていました。
長期的な観点を前提とすべき地域課題でも、今に囚われた発想で解決策を考えてしまう。
未来を検討するために住民懇談会を行っても、現状に対する不満や要望が多く建設的なアイデアが出てこない。
町の未来について、住民が自分事として考える機会が少ない。
起こした変革
フューチャー・デザイン・ワークショップを庁内業務で草の根的に続けて成果を出した結果、未来戦略室の設置など、フューチャー・デザインを推進する体制が庁内で整えられた。
住民ワークショップで未来起点の創造的な意見を町民から引き出すことができた。
総合計画策定では、将来世代に配慮した施策を計画に盛り込み、全方位の政策分野に展開することができた。
未来の町民に配慮した決定を行うために町民と共にアイデア創発を行う、というフューチャー・デザインの考え方が庁内に浸透した。
生み出した価値
ワークショップに参加した住民の協働意欲が喚起され、その後のまちづくりの取組にも積極的に関わってもらえるようになった。
総合計画に掲載された施策を実現させようとする動きが、官民問わず生まれるようになった。
変革のストーリー

目次
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1. はじめに
持続可能性や将来世代を考慮した行政運営を行おうとしても、今を意識した意見しか出てこず、結果対症療法的な政策や事業ばかりになってしまう・・・そのような葛藤を抱える行政職員にご紹介したい考え方がフューチャー・デザインです。矢巾町では、フューチャー・デザインを町政に取り入れることにより、住民とともに持続可能な地域づくりを行う取組を進めています。
岩手県紫波郡矢巾町は、盛岡市の南に隣接する総人口約28,000人の町です(令和2年国勢調査)。町政の意思決定に「フューチャー・デザイン」を本格的に採用した全国初の自治体であり、水道事業から総合計画まで、特定領域にとどまらずに広範な場面でフューチャー・デザインを活用しています。
初めてフューチャー・デザインを活用した水道事業では、町民・議会ともに円満に水道料金の値上げに合意することとなり、全国から注目を浴びました。その後、高橋昌造町長が「フューチャー・デザイン・タウン」を宣言し、続いてまちの最上位計画である総合計画でも活用されました。フューチャー・デザインを活用することで、将来世代に配慮したまちづくりを進めています。
本記事では、取組の中心メンバーの1人である矢巾町職員の高橋氏へのインタビューをもとに、水道事業経営戦略策定と高橋氏が担当した第7次矢巾町総合計画後期基本計画への活用を中心に、矢巾町におけるフューチャー・デザインの実践をご紹介します。
2. フューチャー・デザインとは
フューチャー・デザインとは、持続可能な社会の実現を目指し、将来世代の視点を意思決定に取り入れる考え方です。主にワークショップ形式で実施され、参加者は全員一緒に未来にタイムスリップして仮想将来世代になりきり、望ましい未来や未来づくりのために必要となる現在の選択について議論します。一度仮想将来世代の視点で考えることで、私たちが持つ「目先の利益を差し置いてでも、将来世代のしあわせをめざすことでしあわせを感じる」性質が発揮されるようになるとされています。フューチャー・デザインではこの性質のことを「将来可能性」と読んでい ます。フューチャー・デザインは、自治体の長期計画、企業の新規事業開発、教育機関の「未知の問題発見力向上」のための授業など、幅広い分野で活用が広がっています。
詳しくは、実践ガイド「フューチャー・デザイン・ワークショップ」を参照ください。
3. 矢巾町におけるフューチャー・デザイン
(1)水道経営戦略策定(2015年)におけるフューチャー・デザインの活用
ア)フューチャー・デザインを取り入れる前から、重層的な住民参加に取り組んでいた水道事業
矢巾町でフューチャー・デザインが初めに導入されたのは水道事業の経営戦略です。町内の水道施設の老朽化が進む一方で、住民にはあって当たり前のインフラと捉えられるため、施設更新等の事業の効果も料金改定の必要性も理解されにくく、結果実効的な水道政策の実現が難しいという課題を抱えていました。そこで、矢巾町ではワークショップやアンケートなど、様々な手法を活用して重層的に住民参加に取り組み、住民との双方向のコミュニケーションを進めました。2008年度から始まった「水道サポーター」制度は、公募で集まった住民を対象に毎月1回程度ワークショップを開催し、住民が水道事業を学び、住民と町職員とで平等な立場で意見交換しながら水道使用者の声を行政に届ける仕組みでした。ワークショップを重ねた結果、水道の安全安心に伴い負担があるのは当然だという認識が住民に広がり、2011年度には水道サポーターが自ら水道料金の値上げを提案しました。

出典:吉岡律司. “矢巾町における住民参加型水道事業ビジョン策定とフューチャー・デザイン”. 2015年12月13日
https://www.hit-u.ac.jp/kenkyu/file/27forum3/YOSHIOKA.pdf
イ)フューチャー・デザインを取り入れて、住民意見を現在起点から未来起点に
しかしその意見は現在認識されている課題の解決を起点としたものであり、未来社会の課題や将来世代の視点に基づいていませんでした。水道サポーター制度におけるワークショップは、熟議を繰り返して現実を学び考えつくした上で答えを出す形式でした。水道は耐用年数が長期にわたりますが、将来のあるべき水道の姿を前提とした議論が抜けていました。
その後、ワークショップの熟議の中で自然発生的に未来の話に発展したことや、担当者が研究者を通してフューチャー・デザインの考え方を知ったことを契機に、矢巾町は2015年度の「まち・ひと・しごと創生総合戦略」策定の中で、「矢巾町2060年のフューチャー・デザイン」と題してフューチャー・デザインの実践を開始しました。研究者の支援も得ながら約2.5時間のワークショップを半年で計5回実施しました。水道サポーターを含む20代から80代の町民約20名が参加したといいます。
フューチャー・デザインでは、ワークショップ参加者全員が現世代の視点も仮想将来世代の視点も持てるように、全員一緒に仮想将来世代になって討議を行うことが今は良いとされています。当時はフューチャー・デザインが構想されて間もなかったこともあり、矢巾町では現世代のグループと仮想将来世代のグループに分かれて討議を行いました。結果、現世代グループでは、これまでのワークショップ同様に現代の課題解決型の意見が出ました。翻って仮想将来世代グループでは、長所伸長型や未来像から現在を逆算するバックキャスティング型の意見が出ました。例えば産業振興・誘致に関するアイデアでは、現世代は「今の世代が働く場所を確保するための企業誘致」を提案したのに対し、仮想将来世代は「農業の6次産業化や健康のまち矢巾を実現するための企業誘致」を提案しました。それまでもワークショップの手法を活用していた矢巾町ですが、フューチャー・デザインのワークショップを導入することで、従来手法の場合と比べ、質の異なる意見が出ることが示されました。フューチャー・デザインは将来の生活者の利益を代弁する方法であり、現在の決定が将来世代にも影響を及ぼす政策領域において、重要な視点をもたらすと認識されました。
ウ)多様なステークホルダーで円満な合意の元、水道事業経営戦略を策定
その後、矢巾町は独自に水道サポーター制度にてフューチャー・デザイン・ワークショップを実施し、その過程で再度参加者から水道料金の値上げが提案され、他のサポーターも全員賛同したといいます。
これらの取組で導きだされた町民の意見を反映させ、矢巾町は2015年に水道事業経営戦略を策定しました。水道料金の値上げが含まれましたが、行政・議会・市民の間で2018年に円満な合意のもと決定されたことは、注目に値するでしょう。
(2)庁内でのフューチャー・デザインの広がり
水道事業での取組が起点となり、フューチャー・デザインという考え方・手法が職員、ひいては町長にも伝わっていきました。水道事業でのワークショップの議論の結果は、逐次町長にも報告されていたそうです。住民ワークショップの結果が水道事業経営戦略に反映されるという成功体験の後は、フューチャー・デザインの活用を幅広く試みようとする流れが庁内で生まれ、水道事業から展開して「公共施設等総合管理計画策定」(2016年度)の住民参加ワークショップでもフューチャー・デザインが活用されました。
続いて2018年度に高橋昌造町長が「フューチャー・デザイン・タウン」を宣言、2019年度には企画財政課に未来戦略室が設置され、その分掌事務にフューチャー・デザインが明記されるなど、矢巾町全体でフューチャー・デザインに取り組む機運が高まっていきました。
(3)第7次矢巾町総合計画後期基本計画(2019年度)におけるフューチャー・デザインの活用
ア)フューチャー・デザインを活用する前提で進む策定準備
2019年度には町の最上位計画である第7次矢巾町総合計画(平成28年度(2016年度)~令和5年度(2024年度))が折り返し地点を迎え、後半の令和2年度(2020年度)~令和5年度(2024年度)の指針となる後期基本計画の策定にフューチャー・デザインを活用することが町内部で決定します。当時企画財政課にて総合計画策定の担当者だった高橋氏は、「それまでの実践から、課内で『フューチャー・デザインは長期的な計画づくりに有効』という認識に至り、町長の宣言もあり、総合計画で活用する流れに自然になった」と言います。総合計画策定の時期に合わせて新たに未来戦略室が設けられたという体制面でのサポートも大きな支えになったようです。
イ)フューチャー・デザインを総合計画に取り入れるための課題とその解決策
(ⅰ)-1 「総合開発委員会で承認を得なければならない」という 課題
しかし、総合計画でフューチャー・デザインを活用するにあたり、住民や町内の各種団体の代表者からなる総合開発委員会(通称:60人委員会)から事前に承認を得る必要がありました。「総合開発委員会」は、総合計画の策定に関して町長の諮問に応じて答申を行う機関です。これまでの実績があるとはいえ、委員会からの賛同が得られるかどうかは、その時点で保証はありませんでした。
(ⅰ)-2 簡易セッションを提供することで、総合開発委員会からの承認を得る
総合開発委員会に対しては、矢巾町の市民の経験を見せることが効果的だろうと考え、過去のワークショップ参加者に「仮想将来世代になりきった結果、自身に起きた変化」についての聞き取り調査を行い、調査結果をまとめた動画を委員会の場で上映しました。また委員に実際に仮想将来世代になりきってもらう簡易セッションも提供しました。結果、委員からも理解を得ることができ、正式に活用について承認を得ることが出来ました。中には「自身も市民ワークショップに参加したい」と意思表示する委員も現れ、その後の市民ワークショップには11名の委員が参加してくれたそうです。
(ⅱ)-1 ワークショップで住民のニーズを把握するやり方を考案する必要があった
こうして事前承認や準備が整い、総合計画策定におけるフューチャー・デザイン・ワークショップの企画と運営が開始しました。次に問題になった点は、どのようにワークショップで住民の将来可能性を効果的に発揮させ、住民の真のニーズを引き出すかという点でした。総合計画策定業務でフューチャー・デザインを活用することは世界初であったため、どのような形で実施するかについて新たに考案する必要がありました。ワークショップのデザインは、企画財政課と未来戦略室が自ら検討した案をベースに、計画策定チームの職員と研究者からのフィードバックを取り入れる形で都度決めていきました。
なお矢巾町において、総合計画策定業務で住民の意見聴取のためにワークショップを活用したのは、第7次矢巾町総合計画後期基本計画策定が初めてのことでした。

出典:高橋雅明. “フューチャー・デザイン(第2回) ~まちづくりへの活用と実践~”.2022年10月26日
https://chikouken.org/wp-content/uploads/2022/10/39a7728987fe679bb6c15123f4d09138.pdf
(ⅱ)-2 住民に寄り添ったワークショップ設計やファシリテーションで、住民の意見を引き出す
「フューチャー・デザインで未来のまちづくりを考えよう」と題して実施したワークショップには、一般公募で25名もの参加者が集まり、2か月間に渡って同じメンバーで全6回のワークショップを開催しました。
高橋氏によれば、住民から意見を引き出すため、企画・運営面では現代世代として討議するパートも重要視したといいます。ワークショップ参加者は、自分の思いや言いたいことを持っている人が多いため、いきなり未来に飛んで仮想将来世代になることから始めると、自分の思いを吐き出すことができなくなるためです。6回で構成されたワークショップのうち2回分を使って、まずは現代世代の視点で今の矢巾町が行うべきことを議論し、その後、矢巾町の町の歴史を振り返る議論を行いました(図Xの「第1回 矢巾町のあゆみの振り返り①」「第2回矢巾町のあゆみの振り返り②」)。これはフューチャー・デザインではそれぞれプレゼントデザイン、パストデザインと呼ばれるワークにあたります。

出典:高橋雅明. “フューチャー・デザイン(第2回) ~まちづくりへの活用と実践~”.2022年10月26日
https://chikouken.org/wp-content/uploads/2022/10/39a7728987fe679bb6c15123f4d09138.pdf
職員が行ったファシリテーションにも様々な配慮を行いました。議論が「住民vs行政」という対立構造にならないようにすること、問答ではなく住民同士の対話を生めるようすること等を意識したそうです。ファシリテーションが行政による誘導にならないように気を付けることもワークショップで大事にされているポイントの一つです。ファシリテーションは他の課の若手職員にも手伝ってもらいましたが、事前に気を付けるべきことの共有を行うなど、ファシリテーター間の意識の統一も行いました。
これらの努力により、丁寧で住民に寄り添ったワークショップの実現に繋がり、「その場の単発の意見の寄せ集めではない筋の通った意見(具体的には、将来世代から2019年に生きる人達に対する提言)を本質的なニーズに近い形で引き出すことができた」と高橋氏は言います。住民からも「やってみてよかった」との声が寄せられたとのことです。

出典:高橋雅明. “矢巾町フューチャー・デザイン 条例案の検討について”.2024年9月14日
https://cigs.canon/future-design/docs/future_design_2024/special_report_2024_01.pdf
(ⅲ)-1 定まっていないワークショップ結果の総合計画への反映方法
住民の意見を引き出した後の段階では、ワークショップ内で導出された複数の未来像をどのように総合計画に統合するかが大きな問題としてありました。フューチャー・デザインでは、グループごとに未来像が導出されますが、それらはその時の参加者固有のもので恣意性が高い可能性があり、統合するとしても町のビジョンとして説得力のあるものをつくれるかは分かりませんでした。

出典:矢巾町提供資料より日本総研作成
(ⅲ)-2 未来像ではなく、未来への提言を総合計画に掲載する
最終的には、グループごとに作成した未来像ではなく提言にフォーカスするやり方を採用しました。ワークショップで導出された、現世代に対して行った110個の提言に25名の参加者同士で投票し合い、票が投じられた提言を政策分野に振り分け、該当する総合計画のパートに掲載したと言います。提言は単一の将来像に依拠していないので、統合された未来像より説得力が高いと判断したとのことです。
後期基本計画の紙面上ではワークショップ提言を取り入れた施策にはFDマークが付けられ、市民の意見が取り入れられたことが明示されました。ワークショップで出された提言110件のうち事務事業レベルの提言を除くと66件、そのうち、実現困難なもの、外部要因の影響により判断保留とするもの等を除いた55件の提言が、投票結果も踏まえつつ、後期基本計画に採用されました。

出典:高橋雅明. “フューチャー・デザイン(第2回) ~まちづくりへの活用と実践~”.2022年10月26日
https://chikouken.org/wp-content/uploads/2022/10/39a7728987fe679bb6c15123f4d09138.pdf
(ⅳ)反省点
このように試行錯誤で取り組んできた矢巾町ですが、フューチャー・デザイン・ワークショップのノウハウの面では反省もあるといいます。例えば分量の多い読み物を事前課題として参加者に配布してしまい、参加者から「難しすぎる」と言われてしまったことがありました。ワークショップの回数も6回は住民にとっては多くて負担になることが分かったため、その後は3回程度の設定にしているそうです。
(4)総合計画でのフューチャー・デザインを通じて町に起こった変化
ア)町民に起こった変化
フューチャー・デザイン・ワークショップの実施後、住民協働が進みました。ワークショップを通じてまちづくりへの関心が高まった参加者の声を受けて、町はまちづくりサポーター制度を創設し、町が新しい事業をやる際に住民が参画することが増えたそうです。また町で住民参加のワークショップを開催する際、広報紙に参加者募集を掲載するだけで、自然に市民が集まるようになったといいます。
ワークショップで導出された未来視点の新たなアイデアを実現させようとする動きも出てきました。例えばかつて秘湯として栄えた矢巾温泉は、前期計画では「観光施設の整備:誘客促進を図るため、魅力ある矢巾温泉郷の活性化を推進します」と記載されていました。しかし客数減・老朽化・高齢化で廃業が相次ぎ、残った宿泊施設も町営施設のみとなり、後期計画の検討開始前には、今後の方向性について縮小や廃止もやむを得ないのではという声も聞かれていました。ところが予測に反して、ワークショップで「将来の住民のためにこそ必要だ」という意見が出され、温泉単体ではなく地区全体を連携して積極的に活性化させることになりました。最終的には「西部地区の活性化:ひまわりパークや矢巾温泉、城内山、松並木、キャンプ場などの観光 スポットを連携させ、エリア全体としての魅力を発信しながら人を呼び 込む地域づくりを進めます」と後期計画に記載され、そ の方向で町内関係者が主体的な取組を進めているそうです。
高橋氏は、「フューチャー・デザインに取り組む前は、昔の気質が強い町で、皆『役場に任せればいい』という意識が強いと感じていたが、フューチャー・デザインはそれを打ち破る力になった」「素地が全くない提言は取り組むのが難しいが、何かチャンスが降ってきたときに、『以前町民からこんな意見が出た』と出せることは、着手の推進力になるのかもしれない」と述べています。
イ)行政内部に起こった変化
「フューチャー・デザイン・タウン宣言」がなされて以降、多くの職員はフューチャー・デザインの言葉を知っていましたが、内容の詳細を知らない人も多かったそうです。町の最上位計画である総合計画で活用したことから、フューチャー・デザインの活用がより多くの職員に真剣に受け止められるようになり、上から浸透していきました。総合計画策定時も、「未来の町民にも配慮した計画にするた めに、全庁を挙げて取り組む必要がある。今後のまちづくりを担う職員たちの大きな経験にもなる」という説明をすることで様々な課から若手にワークショップ・ファシリテーターとして参加してもらうなど、支援を得ることができました。
(5)今後の展望
「フューチャー・デザイン・タウン宣言」の精神は今も町政運営の理念に活かされており、矢巾町はフューチャー・デザインを引き続き推進していく意向です。矢巾町では第7次矢巾町総合計画後期基本計画以降も、2021年に職員・議員研修や第8次総合計画策定にフューチャー・デザインを活用してきました。2023年には未来戦略室が未来戦略課に格上げされ、今年度(2025年度)は2件の実施が計画されています。
矢巾町にとってフューチャー・デザインはまちづくりの中心となる考え方です。初任者研修ではフューチャー・デザインの考え方を学ぶ機会があり、またワークショップにファシリテーターとして参加する職員に対し、事前の研修の時間を設けるなど、職員の意識向上と能力向上を目指しています。
未来戦略課が主管課ではありますが、どの課も取り組むことができます。フューチャー・デザイン・ワークショップの実施事業数が現総合計画のKPIにもなっており、今後も使える業務があれば全面的に使っていく方針です。
町では、宣言を仕組みとして実装することを試みており、具体的には、フューチャー・デザインに関するガイドライン等を策定してフューチャー・デザインというツールを町政運営の常設的な制度としてルール化しようとしています。高橋氏は町民に対して、「体験すれば変化を感じるやり方なので、できるだけ多くの町民にフューチャー・デザインを体験して欲しい。裾野を広げていきたい」と述べています。
4.まとめ
a. 本ケースの特徴的な点
フューチャー・デザインという新たな考え方・手法を、自ら試行錯誤しながら庁内の各種事業で活用し、戦略や計画策定に活用しました。
仮想将来世代になって議論をする方法をとることで、将来の町民に配慮したアイデアが市民から出されるようになりました。また庁内でも将来の町民に配慮したまちづくりを行う意識が広がりました。
b.当該手法の活用に係る留意点・前提条件、再現可能性に関するコメント
首長の理解や実践しやすい組織体制など、トップダウンの動きがあったことが、矢巾町がフューチャー・デザインを活用できた大きな要因の一つです。ただその前に、水道事業でのチャレンジングな実践を積み重ねていました。新たな方法を庁内で認めてもらうためにも、ボトムアップでの実践の積み重ねがまずは必要といえるでしょう。
総合開発委員に実際にフューチャー・デザインの簡易セッションに取り組んでもらったことが、フレームワーク導入を認めてもらい、庁内で浸透させることにもつながりました。関係者に実際に体験してもらい効果を実感してもらう時間を設けることも効果的でしょう。
各担当者がフューチャー・デザインというフレームワークの特徴を正確に捉え、試行錯誤でやり方をブラッシュアップしていったことも導入に成功した要因の一つといえるでしょう。
Knowledge フューチャー・デザインで未来の可能性をより広く想像するための、情報のインプット ワークショップで仮想将来世代になる際、参加者から「未来がどうなるかについて無知であるため、上手く未来を想像することができない」という意見が出ることもあるようです。 フューチャー・デザインでは、未来にタイムスリップした際に、精緻で確実性の高い未来像を参加者個々人が描けるかどうかはあまり大事ではありません。それよりも、未来への時の流れや物事の変化を自分で実感して将来世代への想像力を発揮させることの方が、将来可能性を発揮させることに繋がるようです。情報を事前に参加者に多く与えすぎると、誘導になる可能性もあります。 しかし、テーマが参加者にとって馴染みのないものであったり、未来のことを想像することが本当に苦手な人であったりする場合など、何かしらの未来のインプットがあった方が上手に仮想将来世代になりきりやすい場合もあるでしょう。また主催者側も、どのような未来があり得るのかを事前に頭の体操として予習しておくことは、ファシリテーターのワークショップの事前準備になります。 財務省のWebサイト「はじめてのフューチャー・デザイン」の「実 施方法」のページ(https://www.futuredesign.go.jp/practice/)では、未来情報のインプットとして、「未来の社会予測カード」と「いにしえの人々(2020年代の人々)の未来想像会話カード」が準備されています。「未来の社会予測カード」は、公表されている情報を中心と した未来予測を集めたものです。「いにしえの人々(2020年代の人々)の未来想像会話カード」は、「未来予測が実現したら、社会でどんなことが起こるのか?」についてのアイデアを生活シーン別に、2020年代に生きる者としての視点で、対話形式でまとめたものです。起こるかどうか分からないものも含めて、様々な未来の可能性が示されていて、発想の刺激剤となります。これらのカードの活用方法は自由です。インプットが必要と思った際に、参加者同士でどんな未来像あり得るかを議論したり、主催者が事前準備として予習したりするなど、状況に応じて活用方法を各種検討してみてください。 ![]() 出典:財務省. “活動のためのツールと実施方法”.はじめての・フューチャー・デザイン.20241204. https://www.futuredesign.go.jp/about/(2025/12/12閲覧) |
取組者/編著者プロフィール
高橋雅明(たかはし まさあき)
岩手県矢巾町 矢巾町教育委員会事務局 学校教育課長
1998年矢巾町役場入所。2015年よりフューチャー・デザインを活用した各種計画策定等に携わる。2024年より現職。

関連スキル
ファシリテーション

